極彩色の祈り

 しばらくして、スミアはすぐに着替えて、私と一緒に食堂に向かった。食堂の扉の前で、シエルが一人待っていた。いつも私たちはともに食事を摂る。
「遅かったな、二人とも」
「うん。ちょっと話してたから」
 シエルはそれだけ聞くとわかったようで、こくりと頷いてから顎をしゃくる。早く行こうぜ、俺は腹が空いちまった。シエルの無言の不満が聞こえてきて、私はくすりと笑う。スミアもわずかに笑みを浮かべていた。
 私たちが三人そろって入ると、誰かが小さく手を振っているのが見えた。スミアの友人たちだ。スミアは手を挙げてそこへ向かい、私とシエルも後に続く。そして、どこにいたのだろうか、シエルの後にシエルの友人たちが付いてきた。それぞれ五人ずつ程。
 なんで二人にはこんなに仲間ができるのだろう。私はそのように疑問を覚えた。私にはできない。
……いや、スミアとシエルは仲間だろう。しかし、彼女たち以外にいるかというと、違う。そこが、私と彼女たちの違い。
「プレノ? どうした? 具合でも悪いか?」
 シエルが少しうつむきがちだった私の顔を下からのぞき込むようにして私の顔色をうかがう。女子の視線が集まるのを感じる。
 私はすぐに作り笑いを浮かべて、大丈夫、と言った。スミアは自分の友人の横に座る。私はスミアの隣、一番端っこに座った。
「ちょっと、ぼーっとしてただけ」
「そうか」
 シエルはまだ気にしている様子だったが、割とよくあることなうえ、彼の友人に話しかけられたから、そちらの方へと意識を移してしまった。
 シエルも座ったので、私の正面にシエル、隣にスミアという構図になった。しかし、二人ともいつも友人と話しているから、この時だけ私は一人ぼっちになる。でも、それには慣れている。
 元々一人が好きな気質なのか、寂しいとは少し感じるけれど誰かと一緒にいたいという欲望が湧いてくることは無い。
 いつも通り窓の外を見る。窓の外に見えるのは、私たちがまだ行ったことのない、建物だった。私がそれを発見したのはかなり前だけれど、そこに行くことはできていないし、私自身見つけたことをシエルにもスミアにも言っていない。二人とも知らないと思う。その建物はかなり豪奢な造りだから、二人が見つけていたらきっと、皆に行こうと働きかけるに違いないから。
 私がまだ行っていないのは、行けるタイミングがあまりないことと、行く決心がつかないことが原因だった。
「さあ、夕食の時間です。順番に並んでください、私たちが配膳を行います。皆に平等に配られますので、落ち着いて並んでください」
 夕食担当の男性の声が食堂に響き渡る。あの人は神官、この孤児院に隣り合う教会にお勤めする人だ。
 この孤児院を卒業する時は四つの道があって、一つが騎士、一つが下働き、一つが職業に就く、一つが神に奉仕する。
 神官や巫女は神に奉仕する者たちで、食事のあいさつや朝のお祈りは彼らが手引する。
「プレノ、行こうか」
 今日はシエルが誘ってきた。私は頷いて、シエルの少し後ろをついていく。
 スミア、シエル、この二人がいつも私にともに行こうと誘ってくる。ただ皿を受け取って入れてもらうのを待つだけだ、私は一人でも平気なのだが、彼らはどうしても放っておかない。まるで、何かから私を守っているような……
 そんなとりとめのないことを考えながらシエルと雑談し、無事に配膳をしてもらって、再び席に着く。食堂に集っている孤児たち全員が席に着いたかどうかを確認してから、神官がそっと両手の指を絡ませる。私たちも同じようにする。
 ぎゅっと手を握るようにして、額に当てた後、胸に当て、少し離して胸の前に。それに額を付けるようにして礼をし、
「神々の恩恵に感謝を」
 そういって、食べ始めた。カチャカチャと固い物同士がこすれあう音がする。金属のスプーンと陶製の皿だ。雑談は一切漏れてこない。先ほどの喧騒が嘘だったかのように静まり返る。
 食事中は私語厳禁だ。皆黙々と食べ進める。私も黙々と食べ進めながら、いつも通り明日どうするかについて考える。
 実は、私はいつも二人と一緒にいるわけではないのだ。図書室に行ったり、神官の手伝いをしたり、下働きの手伝いをしたり、その他諸々。むしろ、こうして一人でいるときのほうが多い。
 なぜか? 二人といると、ほぼ確実に二人の友人もついてくるからだ。そして、どうやら私は人が多いところが苦手らしく、二人と一緒にいる日のほうが疲れてしまう。明日も一人になって、呪いのことを調べてみようか。