建物の入り口の所には、女性が立って待っていた。私たちの姿を認めると、にこりと微笑む。私たちは彼女に近づいた。
「みなさん、お帰りなさい。ちゃんと夕食に間に合うように帰って来ることができましたね」
「ただいま帰りました、スズ。わたくしたちは早めに着替えてまいります」
「ええ、お早めに、ですよ。遅れると院長様に叱られてしまいますよ?」
スズがおどけた様子でそう言った。
スズは成人していない、洗礼式を受けた子供たちの面倒を見る役目を担う大人たちのうちの一人である。今日のスズは外遊びから帰ってくる子供たちの出迎えが仕事だったらしい。その他に、色々な仕事があるそうだが、私たちにはあとちょっと遠いところだ。
私たちは成人するまでまだ少し時間がある。それに、このまま孤児院に残って奉仕するかどうかを選択するのも先である。
私たちはスズの言葉に頷いて、各自自分の部屋に向かう。私はスミアと相部屋だ。スミアと一緒に自分の部屋に入った。
「……」
スミアは静かにベッドに腰掛けて、外をぼんやりとみていた。スミアは所作がとてもきれい。先生からも褒められている。彼女に流れる血に上流階級の血があるらしい。先祖返りかもしれないわ、とスミアは微笑んでそう言っていた。私が着替えを済ませたとき、スミアがこちらを見た。
「プレノ。色を取り戻すための手掛かりは見つかりそうなのかしら?」
唐突に話を振られて、私は一瞬言葉が出なかった。しかし、すぐに首を振る。
「うん……皆も知らないみたいだしね。これが病気かもしれないし、呪いかもしれないし、正体がわからない以上無闇に人にも聞けないよ」
スミアはきゅっと眉根を寄せた。彼女の端正な顔立ちが歪む。
「難しいわね。院長様なら何か知っているのかしら」
「どうだろうね。知っていそうだけど」
院長様はめったに私たちの前に姿を現すことは無い。たまにお会いできる機会があっても、よくて帳越しだ。ほとんどの者は姿を見る事さえ許されず、お声を聴くことのみ。
別に、彼女を神のように崇拝しているわけではない。ただ、本当にお身体が弱いのだ。そして、かつてのご病気のせいでその容姿が醜いものになってしまい、人に見せたくないのだと、院長様が仰ったそう。そのせいで、今はこのような状況だ。
そして、私の色のことは、実は一度院長様にお聞きしてほしいと頼んだことがある。しかし、すげなく断られたのだ。
『忙しい院長様のお手を煩わせるつもりか』
まあそれは正論だったし、私も納得したので、この件に院長様の手を借りるという手段は私の中で放棄済みだ。
「そう。プレノが聞く気がないのならば、わたくしが勝手に手を回すわけにはいかないわね。ねえ、プレノ。もう一度聞いても良いかしら。わたくしになにかできることはある?」
スミアはそう言った。どこか、彼女の瞳に思いつめたような、暗い感情が見えるように感じられた。
私はそっとスミアの横に腰掛けてみる。スミアは私の肩に頭を預ける。スミアの髪から、甘い香りが漂ってくる。彼女が少しだけつけている香水だ。しかし決して甘ったるくはなく、程よい甘さ。
たまにスミアはこうして私の肩に頭を預ける。私もそれに便乗して、彼女の頭に自分の頭を預ける。スミアに何かあった時は、こうして落ち着かせてやるのだ。態度に見かけによらず彼女は甘えん坊だ。
「こうして一緒にいてくれるだけで、十分だよ。私はね、友達なんてできると思ってなかったんだ。私を気味悪がってはなれるだろうなって、そう思っていたから。だから、スミアがこうして私に気を許して、側にいてくれるだけでありがたい。ほっとする。それだけじゃ物足りない?」
スミアの膝に置かれていた手がぎゅうと握りしめられるのが見えた。私はその手に自分の手を重ねて、上から包み込むようにして握った。冷たい温度が伝わってくる。
「ええ……物足りない。もっと根本的な解決の手伝いをしたいのに、わたくしではできない……歯がゆいの」
私はスミアの頭から自分の頭を離して、スミアと隣り合っていない側の手をスミアの頭にそっと乗せる。髪を梳くように、彼女の頭をなでてやる。
スミアはなぜか、こうして私に尽くそうとする節がある。一度何故かを聞いたけれど、はぐらかされた。私はその時から聞こうとはしていないが、こうされるとやはり気になりはする。彼女はいったい何を考えて、なぜ私に尽くそうとするのか。彼女のような超人が、私のような凡人に。
「ありがとう。そう思ってくれるだけで、十分。本当に、満ち足りてるよ」
スミアはぎゅっと目を瞑って、更に頭を私の肩に押し付ける。私はそれを無言で受け入れた。
「みなさん、お帰りなさい。ちゃんと夕食に間に合うように帰って来ることができましたね」
「ただいま帰りました、スズ。わたくしたちは早めに着替えてまいります」
「ええ、お早めに、ですよ。遅れると院長様に叱られてしまいますよ?」
スズがおどけた様子でそう言った。
スズは成人していない、洗礼式を受けた子供たちの面倒を見る役目を担う大人たちのうちの一人である。今日のスズは外遊びから帰ってくる子供たちの出迎えが仕事だったらしい。その他に、色々な仕事があるそうだが、私たちにはあとちょっと遠いところだ。
私たちは成人するまでまだ少し時間がある。それに、このまま孤児院に残って奉仕するかどうかを選択するのも先である。
私たちはスズの言葉に頷いて、各自自分の部屋に向かう。私はスミアと相部屋だ。スミアと一緒に自分の部屋に入った。
「……」
スミアは静かにベッドに腰掛けて、外をぼんやりとみていた。スミアは所作がとてもきれい。先生からも褒められている。彼女に流れる血に上流階級の血があるらしい。先祖返りかもしれないわ、とスミアは微笑んでそう言っていた。私が着替えを済ませたとき、スミアがこちらを見た。
「プレノ。色を取り戻すための手掛かりは見つかりそうなのかしら?」
唐突に話を振られて、私は一瞬言葉が出なかった。しかし、すぐに首を振る。
「うん……皆も知らないみたいだしね。これが病気かもしれないし、呪いかもしれないし、正体がわからない以上無闇に人にも聞けないよ」
スミアはきゅっと眉根を寄せた。彼女の端正な顔立ちが歪む。
「難しいわね。院長様なら何か知っているのかしら」
「どうだろうね。知っていそうだけど」
院長様はめったに私たちの前に姿を現すことは無い。たまにお会いできる機会があっても、よくて帳越しだ。ほとんどの者は姿を見る事さえ許されず、お声を聴くことのみ。
別に、彼女を神のように崇拝しているわけではない。ただ、本当にお身体が弱いのだ。そして、かつてのご病気のせいでその容姿が醜いものになってしまい、人に見せたくないのだと、院長様が仰ったそう。そのせいで、今はこのような状況だ。
そして、私の色のことは、実は一度院長様にお聞きしてほしいと頼んだことがある。しかし、すげなく断られたのだ。
『忙しい院長様のお手を煩わせるつもりか』
まあそれは正論だったし、私も納得したので、この件に院長様の手を借りるという手段は私の中で放棄済みだ。
「そう。プレノが聞く気がないのならば、わたくしが勝手に手を回すわけにはいかないわね。ねえ、プレノ。もう一度聞いても良いかしら。わたくしになにかできることはある?」
スミアはそう言った。どこか、彼女の瞳に思いつめたような、暗い感情が見えるように感じられた。
私はそっとスミアの横に腰掛けてみる。スミアは私の肩に頭を預ける。スミアの髪から、甘い香りが漂ってくる。彼女が少しだけつけている香水だ。しかし決して甘ったるくはなく、程よい甘さ。
たまにスミアはこうして私の肩に頭を預ける。私もそれに便乗して、彼女の頭に自分の頭を預ける。スミアに何かあった時は、こうして落ち着かせてやるのだ。態度に見かけによらず彼女は甘えん坊だ。
「こうして一緒にいてくれるだけで、十分だよ。私はね、友達なんてできると思ってなかったんだ。私を気味悪がってはなれるだろうなって、そう思っていたから。だから、スミアがこうして私に気を許して、側にいてくれるだけでありがたい。ほっとする。それだけじゃ物足りない?」
スミアの膝に置かれていた手がぎゅうと握りしめられるのが見えた。私はその手に自分の手を重ねて、上から包み込むようにして握った。冷たい温度が伝わってくる。
「ええ……物足りない。もっと根本的な解決の手伝いをしたいのに、わたくしではできない……歯がゆいの」
私はスミアの頭から自分の頭を離して、スミアと隣り合っていない側の手をスミアの頭にそっと乗せる。髪を梳くように、彼女の頭をなでてやる。
スミアはなぜか、こうして私に尽くそうとする節がある。一度何故かを聞いたけれど、はぐらかされた。私はその時から聞こうとはしていないが、こうされるとやはり気になりはする。彼女はいったい何を考えて、なぜ私に尽くそうとするのか。彼女のような超人が、私のような凡人に。
「ありがとう。そう思ってくれるだけで、十分。本当に、満ち足りてるよ」
スミアはぎゅっと目を瞑って、更に頭を私の肩に押し付ける。私はそれを無言で受け入れた。



