極彩色の祈り

〈……ノ、……レノ、プレノ〉
 私は誰かに呼ばれている気がして、そっと身体を起こす。目がぼやけているので、軽くこする。ふわあ、とのんきなあくびが出た。寝起きの目をぱちくりさせると、なんと目の前に美女がいた。
……美女がいた。
 白い髪。白く長いまつげ。澄んだ氷のような青い瞳。薔薇色の頬。抜けるような白い肌。
……精霊みたい。
 ぼんやりとした思考でそう思った。その目の前の人はあからさまにほっとした顔をした後に、申し訳なさそうな顔をした。表情がころころと珠が回るように変化する。
〈すまない、プレノ。我のせいで、プレノに深い負担をかけてしもうたことを詫びさせてはくれぬか〉
……ん? この人はいったい何を?
 時代錯誤な口調に私が戸惑っている間に、その美女は私の額に自らの額を付ける。
〈……ふむ。熱はないな。疲労感も軽減されているだろうか?〉
「は、はい……?」
 私が首を傾げつつ頷くと、よかろう、と満足げに美女は頷く。ふと、後ろに誰かが見えた。目を凝らすと、頭を抱えているルヨが見えた。私はその原因がこの美女であるだろうことはすぐに察した。
「何者です?」
 だんだんと意識が鮮明になってきたので、声を震わせずに冷静に尋ねることができた。美女は目をぱちくりとさせたが、やがて笑みを浮かべる。それはとてもきれいな笑みで、見るものを魅了させる笑みだった。
〈すまぬ、挨拶が遅れた。我の名はアイセララ・グラシエル。アイラと呼んで構わぬ。我はこの屋敷を司りし精霊。また、水の神より氷の力を授けられた者。ゆえに、我の名は氷に関する者からとられた名前だとか。深いことは気にせず、仲良くしてくれぬか、プレノ。貴殿が来てくれることをずっと楽しみにしておったのだ〉
 いろんな情報が入ってきた。私は頭に手を当てて状況を整理する。私は、精霊様に呼びかけた。すると返答があった。気力が流れ出していって、気を失った。目覚めたら美女が目の前にいた。その美女は屋敷を司る精霊だと言い、氷の力を持つと言った。仲良くしてほしいと、私が来ることをずっと楽しみにしていたと言った。
……つまり、私がこの精霊を召喚したってことだよね。なんで⁉
 私がおろおろしていると、ルヨ様が歩み寄ってきた。
「その……アイセララ様。なぜ、ここに来られたのでしょうか?」
 ルヨ様の恐る恐ると言った問いに、アイセララ様は首をかしげる。
〈問うておる意味がよくわからぬが……我はプレノの力を欲しておったのだ。プレノは精霊と繋がれる。プレノの力を分けてもらえれば、我はこうして現世に精神姿共に現ることができるのだ。ゆえに我はプレノをここに呼んだ。ただ、こちらばかりが貰い続けるのは不誠実だと言えよう、ゆえに我はこうしてプレノの手伝いをしているのだ〉
 つまりは貸しを作りすぎたくないということだが、私は今この状況についていけていない。急に精霊様が現れたのだ。目を白黒させて叫びたい、わけがわからない! と。
 アイセララ様はなんたることか、ふわりと浮かび上がって移動した。そして、迷わずにある棚へと向かう。私とルヨはぼんやりとそれを見ていることしかできない。アイセララ様は何かの曲を口ずさみながら本の表紙を一つ一つ見ていく。
〈あったぞ〉
 そういい、彼女はすっと一冊の本を引き出した。
〈プレノ、ルヨ、こちらに来るがよい。我が探し当てたプレノの呪いについて書いてあるものだ。ともに見よう〉
 私はルヨと顔を見合わせる。ルヨ様が本当に困惑した顔でこちらを見てくるので、私にも訳が分からないと首を振った。ルヨ様は仕方がなさそうに肩をすくめ、行こうと促した。私は頷き、二人でアイセララ様の元へ歩いていく。
「アイセララ様、それは……」
〈ならぬ〉
 私が話しかけようとしたら、アイセララ様に否定される。え、と私がアイセララ様を見上げると、なぜか泣きそうな顔をしていた。
〈我はプレノにアイラと呼んでほしいのだ。アイセララ様はあまりにも他人行儀であると思わぬか?〉
 つまりは呼び捨てにしろと。精霊様を? いや出来るわけがないでしょ神の使いだし。でもそれと同時に命令に逆らってはいけないとも思う。というか、そんな悲しそうな顔で告げるのがそれか。すごく心配してしまったのだが。
「アイラ様。これが限界です」
〈……ふむ、まあ現段階では良しとしようではないか〉
 どうやら及第点はもらえたようだ。私はそっと胸をなでおろす。そして、改めてアイラ様に呪いについての説明を求めた。アイラ様はぱらぱらとページをめくっていく。そして、これだ。と言った。