極彩色の祈り

 図書室に入り、私はふと昨日の夜見た夢を思い出す。脳裏にぶわっと展開される記憶。それはまるでつい先ほど見たかのように鮮明だ。私は思わず立ち止まり、ぎゅっと目を瞑ってそれをよく思い出そうとする。あれはおそらく図書室。だって、本棚がたくさんあったもの。そして、大事なのはそれが何階なのか。それの手掛かりとなりそうなのは……
「プレノ?」
 ルヨ様の声で、はっと我に返る。目を瞬きすると、目の前に私を心配そうにのぞき込むルヨ様の姿があった。私はルヨ様に話そうかどうか迷い、視線を彷徨わせる。でも、それと同時に、アネリーゼ様が「プレノが何かをつかんだ」と言っていたことも思い出す。私が何か言いたくても言いづらいことを察したのだろう、ルヨ様は私に向けて頷いて見せた。それが話していいよと言っているようだった。私は少し肩の力を抜く。ルヨ様は、私と視線を合わせるために少し腰をかがめる。
「昨日の夜、寝る前、私は熱と倦怠感に襲われました。その時に、不思議な夢を見たんです。しかもそれは、今でもつい先ほど見た記憶であるかのように鮮明に思い出せます」
「夢、ですか?」
「はい」
 ルヨ様は不思議そうに首をかしげたが、やがて彼もアネリーゼ様のお言葉を思い出したらしい。顔がわずかにこわばっている。
「それは、とある本の夢でした。その本はとても光り輝いており、私はそれに手を伸ばそうとしました。おそらく、その本が」
「アネリーゼ様が言った、『何か』なのですね。そしてそれは危険を伴うことだと。つまり、」
「「呪いを解く方法が記されている本」」
 私とルヨ様の声が重なった。同じ結論に達したようで何よりだった。説明する手間が省ける。ルヨ様は顎に手を当てて少しだけ考え込み、私を見る。
「プレノ。何かその本の置き場に手がかりは?」
 私は先ほどと同じように記憶を展開する。そして、何か手掛かりがないか、きょろきょろと見渡すような意識を持ってみた。すると、何と言う事だろうか、周りが良く見えるようになったのだ。
「おかしい……」
 私はそれが声に漏れていたことに気づかなかった。ルヨ様はそれを聞いてピクリと眉を動かし、口を開きかけたがすぐに閉じた。
「一階じゃなくて……少なくとも二階以上……周りにある本は……魔獣図鑑?」
「魔獣図鑑?」
 ルヨ様の声により、私は現実に引き戻される。先ほどから、何かがおかしい。あれは夢で見ただけのもののはず。なら、あの夢を見ているときに見えていた範囲の物しか見えないはずなのに、まるで今見ているかのように色々な物が見えた。
「プレノ。先ほどおかしいという言葉があなたの口から洩れていました。それについて何か心当たりがあるのですか?」
 ルヨ様がそれに言及する。そのことで、なぜルヨ様が表情筋を動かしたのかが分かった。私は先ほどの私の思考回路を説明する。ルヨ様はきつく眉を寄せた。
「おそらくそれは、精霊様のお導きです。そのような怪奇現象は、普段ではありえないことは精霊様方が関与されている場合が多いのです。おそらく貴女は精霊に好かれている。だから、精霊が力を貸そうと思ったのでしょう。精霊の力を受けると言う事は、それなりに負担を強いられることとなります。貴方の倦怠感と発熱はそれが原因でしょう」
 ルヨ様はさくっと結論付けて、立ち上がった。そして、私に向けて手を伸ばす。
「一緒に魔獣の書物があるところを探してみましょう。恐らくその中に、呪いに関する記述がある本が見つかるはずです」
 私は頷く。そして同時に、アネリーゼ様のお言葉を思い出してもいた。
『神々はこの大陸に多くの精霊を配置し、私たちが神への反乱を起こさぬようにした。この敷地の中にも、幾人か精霊様が宿っておられるとされている場所がある。そのうちの一つがこの屋敷だ。プレノはおそらくここに宿っておられる精霊様に呼ばれたのだろう』
 精霊様たちに関しては、深く考えるなと教えられている。神々や精霊様は私たちと似ているようで全く違うものだから、と。これは、メテオ様の受け売りだ。メテオ様たち星読み様は、神々のセカイに干渉するようなことをするのと同じなので、その関係の心得はあるらしい。私は早々に考えることを放棄し、ルヨ様の手を取った。