極彩色の祈り

 屋敷のほうへ行こうとすると、クルスが何も言わずともその道をすいすい歩いてくれた。頭が良いのだろう。ありがとうの意味を込めて足で腹をさすってやり、頭も撫でてやると、嬉しそうに鼻を鳴らした。
 屋敷の前では、ルヨ様が一人待っていた。アネリーゼ様を置いてルヨ様がそこに居ようとするとは思えず、何かあったのではないかと少し心配になる。
 ルヨ様は私を見つけ、手を振った。私がクルスから降りて近づくと、クルスを厩舎に入れるようにと言った。いいのかと尋ねると、前回は知らなかったから何もできなかったが、馬が少し可哀そうだと教えてくれた。
 クルスを厩舎に入れてやると、隣の馬と気が合うようで、リラックスしている雰囲気になった。ルヨ様がそれ以上何も言わずに屋敷の中へと入っていくので、私はそれに続く。
 しかしこのままではいられないと思って、ルヨに声をかけた。ルヨ様がこちらを振り向く。
「えっと……アネリーゼ様は……」
「ああ、すみません。アネリーゼ様は少し体調が悪く、臥せっておられます。そのため、今日は来れませんでした。本人は来たいと言っていたのですが、やはり体調が悪い中ここに来るのはあまりよくないので……」
 アネリーゼ様はお身体が弱いのだと思い出す。そして、一週間に一日は臥せってしまうことも。アネリーゼ様が先週あまりにも元気なご様子だったから、いないことが少し信じられなかった。
「それだけでは、ないのではないですか?」
 私が指摘すると、ルヨ様は驚いたように目を見開く。私が知っているルヨ様とは違う。もっときっちりとした人だった。心配になって彼の袖の裾をつかむと、彼は弱弱しく微笑む。
「すみません。アネリーゼ様がおかしなことを寝言でつぶやいておられたので……」
「……おかしなこと?」
 私は首をかしげた。ルヨ様は思い出すかのように視線を上にあげて、目を伏せた。私は根気強く待つ。
「プレノが何かつかんだ。でも危険だ、と。私には何が何だかわからなかったのですが、彼女の熱が非常に高く、ものすごく汗をかかれていた上に咳き込んでいらしたので……今までの中でもかなり容体が悪いのです。半年ぶり位に」
 アネリーゼ様の危険と、私の危険。ルヨ様は、双方を案じてくれていたのだろう。私はしばらく考えたあと、何も知らない私に言えることは無いのですが、と切り出す。
「アネリーゼ様は偉大なお方ですし、アストラル家の方でしょう? ならば、たくさん側仕えがいるのではないですか? そして、その方々は優秀なのではないですか? ルヨ様がここに来てくださったのは、アネリーゼ様が私と交わした約束を守ろうとしてくれたからでしょう?」
 そこまで言い終えると、私は一度、息を吐いた。質問攻めにされて、ルヨ様は困ったようにこちらを見ている。私は微笑む。
「ルヨ様は十分アネリーゼ様のお役に立てていると思いますし、私もすごく助かっています。それに、私は孤児です。本来はルヨ様と呼ぶことも、お目にかかることもないと思います。それくらい、本来私の命は軽いものです。たとえ私が危険にさらされたとしても、それはルヨ様が気に病むことではございません。心配してくださったのは嬉しいですが、ルヨ様も大変でしょう? 前のルヨ様ではないような、うわの空でした。私のこととアネリーゼ様のことは気にせずにいてくれませんか?」
 一気に言ったし、勢いで言ったので、変なことを言っていないか心配だ。ルヨ様を下から見つめる。ルヨ様はしばらく私をじっと見ていたが、やがて仕方がなさそうに微笑んだ。
「そうですね。私が心配することはありませんでした。ありがとうございます、プレノ。……しかし、自分の命を軽く言うことはよくありません。既にアネリーゼ様は貴方のことを大切に思い始めています。そこのところはお気をつけください」
 私は首をすくめてはい、と言った。そのまましばらくいたが、やがてどちらかともなく笑い始めた。