極彩色の祈り

 そしてアネリーゼ様のほうへ顔を寄せる。アネリーゼ様はぼそぼそと何かをつぶやいているが、それはルヨ様にしか内容を聞き取れないほど小さい声だった。ルヨ様も同じくらいの音量で返事を返しているようだった。
 アネリーゼ様はルヨ様のほうを見ず、真正面を向いたままだった。ルヨ様の言葉に時折頷き、何かをつぶやく。ルヨ様がそれに反応し、囁き返す。それを繰り返していた。何かを相談し、考えているようだった。
 私は目の行き場を見つけられなかったので、二人のことを見ていた。そして、あれ、と疑問を覚え、首をかしげた。同じく手持無沙汰だったのだろう、プロン様が目ざとくこちらの様子に気づく。話し合っている二人の邪魔をするのは悪いと思ったのだろうか、私のほうへと近づいてくる。
「どうした? 何か聞きたいことでもあるのか?」
 私はプロン様の顔と、アネリーゼ様の顔を見比べる。プロン様は視線の圧力で早く話せと促してくる。
「アネリーゼ様、お顔が綺麗だなって」
「……それがどうかしたのか?」
 プロン様は本気で意味が分からないらしく、しきりに首をひねっている。私はプロン様を手招きして、しゃがんでもらう。そして、彼の耳元に口を寄せる。
「アネリーゼ様はご病気のためにお顔が……」
 私が言葉に詰まっていると、プロン様は言いたいことを察したらしく、ああ、と頷く。そして、私から少し離れた。
「アネリーゼ様が孤児たちの前に姿を現さない理由について気になりはじめたのだな?」
 私が頷き返すと、どう話したものかとプロン様が顎に手を当てて考え始めた。アネリーゼ様そっくりのポーズに、主人と従者は似るものなのだなと思う。そういえば、ルヨ様も同じようなしぐさをしていたな、と思い出す。
「プレノ」
 そんな中で、アネリーゼ様の声で私の名が紡がれる。私は即座に思考を停止し、反射的に姿勢を正し、首を垂れる。アネリーゼ様がふ、と笑ったのが聞こえた。プロン様が私の元から去っていく足音も。
「先ほどから緊張させてしまってすまないね。プレノの個人的なところに踏み込む話だから、私も無意識に緊張してしまっていた」
 私は俯いたままで頷いた。アネリーゼ様が立ち上がるのが少しだけ見える。お顔はわからない。アネリーゼ様は私に近づいてきて、しゃがみ込む。ちょうど、図書室の時と同じだ。
「顔を上げてくれないかい」
 私は要望に従って顔を上げる。アネリーゼ様は先ほどまでの真剣な顔ではなく、微笑みをたたえた顔をしていた。やはりアネリーゼ様は笑っていると綺麗だ、そう思った。
「私は、プレノの問題解決に手を貸すことにした。君は有能だし、その色が見えない呪いとやらを研究するのも楽しそうだしな」
 私はしばらく何が言われたのかわからなかった。

———モンダイカイケツニテヲカスコトニシタ。
———ケンキュウスルノモタノシソウダシナ。

「問題解決……手を貸す…………えぇっ⁉」
 ようやく意味を理解した時、思わず叫びかけたことを許してほしい。まさか、アネリーゼ様がこんな孤児一人に時間を割いてくださるなど思わなかったからだ。昔はだめだって言われたのにな。そう、昔はだめだったからなおさら驚いた。
「驚きすぎですよ」
 ルヨ様が仕方がないな、と言いたげに笑った。プロン様も無邪気な子供を見ているような眼で私を見てくる。私の頬は羞恥心で何かの色に染まっただろう。現に私の頭は少しくらくらして熱い。すごく恥ずかしい。見られていることを忘れていた。
 アネリーゼ様もしばらく苦笑していたが、やがて私の気が静まったのを察したのか、立ち上がった。そして、私に向けて手を伸ばす。
「さあ、まずは手始めに呪いのことについて図書室で調べてみようか」
 私はその手を取る。アネリーゼ様がぐい、と私の身体を引き上げてくれた。その力に逆らうことなく立ち上がる。アネリーゼ様は再び笑った。今から起こる冒険を楽しむような、無邪気な笑みだった。