「プレノ。君の世界には色がないというのは本当なのか?」
私はびく、と体を震わせる。まさか、もうアネリーゼ様はそれを知っているのか。私の反射的反応を肯定と受け取り、アネリーゼ様はふぅ、と細く息を吐く。ルヨ様が何かをメモしているのが見えた。
「次だ。それは、いつからだ?」
「……生まれつきです。両親は色がないことは自分たちのせいだと言っておりましたが、恐らく先天的なもの。神が与えた試練だと考えております。色がないことで困ることは特にはありませんし、幸い私には友人もいます。今の生活に不満があるわけではないです」
す、とアネリーゼ様の瞳が細められた。
「ここに来た理由は?」
「色がないのは、呪いなのではないかと私は考えました。視覚障害や聴覚障害など、先天的なもので治すのは難しいものがあることは承知です。しかし、色がない病気と言うのは今まで発見されたことがありません。私はそれを、医学書を読んで知りました」
「君が医学書を読める、と?」
「いえ。大人に助けてもらいながら調べました」
「なるほど。それで?」
「このお屋敷は不思議なお屋敷でした。それと……なんとなく、呼ばれていた気がして」
アネリーゼ様が目を見開く。しかしそれはすぐに細められ、元の表情に戻る。しかし、少し目を伏せて考え込んでいるようにも見えた。ルヨ様はまだひたすら何かを書いている。プロン様は無表情のまま佇んでいる。辺りに沈黙が満ち、少し気まずくなって私はうつむく。
「……呼ばれていた気がする、というのは?」
ふいに、プロン様がそう私に問いかけた。私はプロン様のほうをむく。
「……わかりません」
私はそう答えてから、本当にわからないのだと思った。だって、本当に声が聞こえたわけでもないし、引力が働いたわけでもない。夢に出てきたりもしていない。でも、呼ばれていると感じた。なぜだろう?
「わからない?」
プロン様が眉をひそめた。私は頷きを返すことしかできない。再び立ち込めた沈黙を破ったのは、アネリーゼ様だった。
「……それはおそらく、精霊様のお声ではないか」
「……精霊?」
アネリーゼ様にプロン様が問い返す。アネリーゼ様はルヨ様を手招きし、何かを耳打ちした。ルヨ様は素早く動いて、一冊の本を持ってくる。
それは少し豪奢な造りで、装飾が施されている。そして私は、それを見たことがあった。
「聖典」
聖典は、一般的には神殿に置かれているものだ。神々がどのようにこの世を造り、今の世界まで導いてきたのかという神話や、神々の力、神々に仕える者たちなど、神にまつわることが記されている。
しかし、由緒ある家だったりすると、その家に代々受け継がれる聖典があったりするし、もう今は廃墟となってしまった神殿などから聖典を持ち出して自分たちの所で祀るものもある。しかしそれは、どれとも違うように見えた。
「これには、ここを護る精霊様方のことが書かれている」
「こことは、どの範囲を指すのですか?」
「私たちの家が所有している敷地すべてだ。私たちの敷地があるこの大陸は、他の三つの大陸に比べて世界樹に近い。世界樹に近いと言う事は、神々の目が届きやすく、神々は私たちに干渉しやすい。逆に言えば、こちらも神々に干渉しやすいと言う事だ。神々はこの大陸に多くの精霊を配置し、私たちが神への反乱を起こさぬようにした」
アネリーゼ様はそこで一度言葉を切り、わかるか? と問いかけるように、私をまっすぐに見た。与えられた情報を頭の中でかみ砕き、おおよそ理解したところで頷く。アネリーゼ様も頷いて、説明を続けた。
「この敷地の中にも、幾人か精霊様が宿っておられるとされている場所がある。そのうちの一つがこの屋敷だ。プレノはおそらくここに宿っておられる精霊様に呼ばれたのだろう。……呼ばれた、という意識もないのではないか?」
アネリーゼ様の問いに、こくりと頷く。まさにそうなのだ。アネリーゼ様はやはりな、と言いたげな表情で頷く。聖典をパラパラとめくっていたが、やがてパタン、とその聖典を閉じた。そして、私のほうを見る。
「次。プレノはその呪いをどうするためにここに来た?」
「解くために。その方法を調べるために、ここに来ました」
アネリーゼ様は頷く。そして、再び顎に手を当てながら考えこむ。ルヨ様はその後しばらく書き留めることを続けていたが、やがてメモが終わったらしく、筆記用具をしまった。
私はびく、と体を震わせる。まさか、もうアネリーゼ様はそれを知っているのか。私の反射的反応を肯定と受け取り、アネリーゼ様はふぅ、と細く息を吐く。ルヨ様が何かをメモしているのが見えた。
「次だ。それは、いつからだ?」
「……生まれつきです。両親は色がないことは自分たちのせいだと言っておりましたが、恐らく先天的なもの。神が与えた試練だと考えております。色がないことで困ることは特にはありませんし、幸い私には友人もいます。今の生活に不満があるわけではないです」
す、とアネリーゼ様の瞳が細められた。
「ここに来た理由は?」
「色がないのは、呪いなのではないかと私は考えました。視覚障害や聴覚障害など、先天的なもので治すのは難しいものがあることは承知です。しかし、色がない病気と言うのは今まで発見されたことがありません。私はそれを、医学書を読んで知りました」
「君が医学書を読める、と?」
「いえ。大人に助けてもらいながら調べました」
「なるほど。それで?」
「このお屋敷は不思議なお屋敷でした。それと……なんとなく、呼ばれていた気がして」
アネリーゼ様が目を見開く。しかしそれはすぐに細められ、元の表情に戻る。しかし、少し目を伏せて考え込んでいるようにも見えた。ルヨ様はまだひたすら何かを書いている。プロン様は無表情のまま佇んでいる。辺りに沈黙が満ち、少し気まずくなって私はうつむく。
「……呼ばれていた気がする、というのは?」
ふいに、プロン様がそう私に問いかけた。私はプロン様のほうをむく。
「……わかりません」
私はそう答えてから、本当にわからないのだと思った。だって、本当に声が聞こえたわけでもないし、引力が働いたわけでもない。夢に出てきたりもしていない。でも、呼ばれていると感じた。なぜだろう?
「わからない?」
プロン様が眉をひそめた。私は頷きを返すことしかできない。再び立ち込めた沈黙を破ったのは、アネリーゼ様だった。
「……それはおそらく、精霊様のお声ではないか」
「……精霊?」
アネリーゼ様にプロン様が問い返す。アネリーゼ様はルヨ様を手招きし、何かを耳打ちした。ルヨ様は素早く動いて、一冊の本を持ってくる。
それは少し豪奢な造りで、装飾が施されている。そして私は、それを見たことがあった。
「聖典」
聖典は、一般的には神殿に置かれているものだ。神々がどのようにこの世を造り、今の世界まで導いてきたのかという神話や、神々の力、神々に仕える者たちなど、神にまつわることが記されている。
しかし、由緒ある家だったりすると、その家に代々受け継がれる聖典があったりするし、もう今は廃墟となってしまった神殿などから聖典を持ち出して自分たちの所で祀るものもある。しかしそれは、どれとも違うように見えた。
「これには、ここを護る精霊様方のことが書かれている」
「こことは、どの範囲を指すのですか?」
「私たちの家が所有している敷地すべてだ。私たちの敷地があるこの大陸は、他の三つの大陸に比べて世界樹に近い。世界樹に近いと言う事は、神々の目が届きやすく、神々は私たちに干渉しやすい。逆に言えば、こちらも神々に干渉しやすいと言う事だ。神々はこの大陸に多くの精霊を配置し、私たちが神への反乱を起こさぬようにした」
アネリーゼ様はそこで一度言葉を切り、わかるか? と問いかけるように、私をまっすぐに見た。与えられた情報を頭の中でかみ砕き、おおよそ理解したところで頷く。アネリーゼ様も頷いて、説明を続けた。
「この敷地の中にも、幾人か精霊様が宿っておられるとされている場所がある。そのうちの一つがこの屋敷だ。プレノはおそらくここに宿っておられる精霊様に呼ばれたのだろう。……呼ばれた、という意識もないのではないか?」
アネリーゼ様の問いに、こくりと頷く。まさにそうなのだ。アネリーゼ様はやはりな、と言いたげな表情で頷く。聖典をパラパラとめくっていたが、やがてパタン、とその聖典を閉じた。そして、私のほうを見る。
「次。プレノはその呪いをどうするためにここに来た?」
「解くために。その方法を調べるために、ここに来ました」
アネリーゼ様は頷く。そして、再び顎に手を当てながら考えこむ。ルヨ様はその後しばらく書き留めることを続けていたが、やがてメモが終わったらしく、筆記用具をしまった。



