極彩色の祈り

 鐘が鳴った。五回。もう、五の鐘の時間だ。
「ああ、もう帰らないといけないな」
 低い声が耳朶を打つ。声の主は、整った顔立ちと肩で切りそろえている髪、すらりとしていて鍛え抜かれた肉体をもつ青年だ。
彼は腰に差している鞘に先ほどまで自分の友人と打ち合わせていた木剣を収める。それに合わせて、彼の周囲にいた同じく鍛え抜かれた青年たちがそろって鞘に自らの剣を収めた。それを私がぼーっと見ていると、
「そうね。早く帰らないと、院長様に怒られてしまうでしょう。わたくしたちも片づけましょうか」
 今度は玲瓏な声が耳に転がり込む。声の主は、華奢な体躯に薄い色の腰まで伸びる髪を三つ編みに結った少女。
彼女は腰掛けていた椅子から音もなく立ち上がり、バスケットのふたを開け、そっと机の上に置く。私は彼女の友人たちを見た。そして、頷きあい、目の前に広げられていたティーセットを素早く丁寧にバスケットに詰め込んでいく。
「お待たせいたしました。帰りましょうか」
 全てバスケットに詰め終えて、少女がさっそく歩き出しながら言うと、青年が少しだけため息をついて見せる。
「スミア、俺たちより先に帰ろうとするのか? 一応俺たちはお前を待っていたのだが」
「片づけに時間がかかるのは仕方がないことでしょう? それに、誰が先に帰っても良いではないですか」
「なんとなくこちらの気配りを無碍にした感じがする」
「それは貴方だけですよ」
 シエルのさりげない不満を笑顔で流し去ったスミアは、ふいに振り向いて私のほうをむいて、手をさしだしてきた。私が手を伸ばすと、彼女はその手を握った。
 私の視界の端に、むすっとした顔のシエルと、じっと私を見てくるシエルとスミアの友人たちが映る。私は手を引いてくれるスミアの横へと駆け寄った。
「さあ、プレノ。こんな人は置いてって早く食堂へ向かいましょう? 早くしないとなくなってしまうわ」
「食事は逃げない」
 シエルがつっこみ、呆れたように首を振った。私は苦笑を漏らしてしまう。二人で仲良く並んで歩いていると、私のもう一つの隣にシエルが並んだ。


 皆が彼らの言葉に従ったことからなんとなくわかるように、スミアもシエルも人気者だ。二人とも優秀で、どこか人目を引く。
 対して私は地味で、特に得意なこともない。いたって平凡だ。私と彼らが仲が良いことに疑問を覚える人も多いと聞く。周りの視線は気になるが、二人がせっかく構ってくれるのだ、それを無碍にする理由は存在しないと私は考えている。そして皆も二人が一緒にいるから、何も言ってこないし、言えない。

 シエルとスミアの二人を私は信用している。二人にだけ、私の色が見えない呪いがあるということは教えてある。私の身体に生まれたときから宿ってしまっていたこの呪いは、私を他人と少し違う存在にさせた。
 だからと言って私が疎外感を覚えることがないのだが、芸術品を鑑賞していたりすると、色の違いが判らないので困るときがあったのだ。このことを告白した時、二人は真剣な顔で頷いてくれ、誰にも話さないと約束してくれた。そして、そのあとから少し彼らの過保護具合が増した。