「プレノはなぜここに?」
ルヨ様が質問をぶつけてくる。私の口は半ば自動的に動く。
「食堂から、このお屋敷はずっと見えていました。ずっと気になっていたのですが、昨晩、星読み様に思い立ったことをすれば道が開けるという星のお告げを受け取ってもらいました。なので、今日ここに来ました」
アネリーゼ様相手だと固まる口も、一段階相手の位が下がったからか、滑らかに動いてくれた。なるほど、とルヨ様は頷き、アネリーゼ様によく似た、顎に手を当て視線を下げるスタイルで考え込む。
アネリーゼ様は、何度も頷きながら、少し考え込むように虚空を睨みつけている。
「ここに入る前、身構えていただろう。なぜ、そうすることができた? まるで、誰かいることを知っているようだった」
今度はプロン様から質問が飛んできた。私はプロン様を見上げる。立っているプロン様と、跪いている私。高低差があるからか、プロン様が威圧的な態度を取っているように見えた。
私は不安によって口内ににじみ出すつばをごくりと飲み込む。数秒間、どう答えるべきか考える。
「私の両親は、情報部隊の者です」
「ほぅ?」
「なるほど、だから……」
「……ふぅん」
私の答えを聞いた彼らの反応はほぼ同じ。少し驚き、興味深そうに私を見てくる。私は詳しく話すか否か、迷った。ここまで話せば、もうすべて話すしかないことはわかっていたけれど。今更ながら、両親に良く言い聞かせられたことを思い出してしまう。
しかし、アネリーゼ様が促すようにじっと私の瞳をのぞき込もうとしてくるから、話すしかなくなってしまった。
「私は孤児院住まいですが、両親に捨てられたわけでも両親が死んだわけでもありません。両親が孤児だったので、孤児院で生まれ、孤児院で生活しているのです。彼らはそれぞれ適性を認められ、情報部隊にスカウトされました。両親は各々の弱点を補いあえるとても良いコンビだったので、そこから仲が深まり、結婚に至ったのです。私は父と母により適性を調べられました。そして、私は適性ありと診断されました。そのため両親から様々な教育を受けています」
いつしか、アネリーゼ様は虚空を睨みつけるのをやめ、私のほうをじっと見ていた。考え込んでいたルヨ様も、こちらを見ている。プロン様は相変わらず見下ろしたまま。私は細く、長く息を吐き出す。すこしだけ、唇を舐めて気を落ち着かせる。
これは、シエルにもスミアにも明かしていない、私の大事な秘密。情報部隊に入る者は、直前まで、正式に入隊が認められるまで誰かに明かしてはならない。
だから、これは嘘の話。とは言えど、大部分はあっている。私が両親と会うのはごくわずかな時間だけ。大体は情報部隊の教育係が教育しに来る。そこだけだ。
このことはアネリーゼ様はよく知っていることだろう。情報部隊の者たちが仕えるのはアストラル家の方々なのだから。現に、アネリーゼ様は少しだけ首をかしげている。
「なので……ドアノブの埃が、他の部屋には積もっている埃が綺麗に拭われていることに違和感を持ちました。些細なことからでも良い、常に注意を払い続ける事。これが、私に叩き込まれた知識のうちの一つです」
アネリーゼ様は段々と笑顔になっていく。面白い、と言いたげに、爛々と瞳が輝いて。それが少し、子供っぽく見えてしまう。
「それは面白い、ぜひもっと話を」
「アネリーゼ様、抑えてください」
ルヨ様が身を乗り出そうとするアネリーゼ様の肩をつかんだ。アネリーゼ様は一度固まった後、ゆっくりともとに、後ろに戻っていき、やがてすとん、と地面に尻をついてしまう。そして、自分をじっと見ている私に気づき、頭を掻く。
「いや……すまない。どうも自分が知らないことになると興味がわいてしまって……思わずそれにのめりこみそうになるんだ」
研究者のさがのようなものかな、とアネリーゼ様は恥ずかしそうに笑った。完璧に見えるこの人にも、少し無邪気な面があることを私は知った。
アネリーゼ様は咳払いをして、立ち上がる。私もあわてて立ち上がる。ルヨ様はいつの間にか音もなく立ち上がっていた。何者なんだろう、と思う。文官なのに、まるで情報部隊の人のようだ。
「さて……プレノ、すまないが、もう少し君の話を聞かせてもらうよ」
アネリーゼ様の表情は、先ほどとは打って変わって真剣な表情で、思わず、ごくり、と唾を音を立てて飲み込んでしまう。緊張して見上げる私としばらく視線を合わせていたが、やがて、ふっと表情を和らげる。
「さっきも言ったが、そんなに硬くならないで良いさ。と言っても、緊張してしまうだろうが……とにかく、一度場所を変えよう。この屋敷にはよく遊びに来ていてね。この屋敷のことはよく知っているのさ」
アネリーゼ様がウインクを決める。私を安心させるために明るく振舞っているのだとわかった。私は少し笑った。
「案内、よろしくお願いいたします」
「……調子に乗るなよ」
すぐに否定の意味合いが込められた声でたしなめられてしまい、私は思わず肩をすくめる。どん、と音がして、いっ、という声がして、アネリーゼ様が声をあげて笑った。
ルヨ様が質問をぶつけてくる。私の口は半ば自動的に動く。
「食堂から、このお屋敷はずっと見えていました。ずっと気になっていたのですが、昨晩、星読み様に思い立ったことをすれば道が開けるという星のお告げを受け取ってもらいました。なので、今日ここに来ました」
アネリーゼ様相手だと固まる口も、一段階相手の位が下がったからか、滑らかに動いてくれた。なるほど、とルヨ様は頷き、アネリーゼ様によく似た、顎に手を当て視線を下げるスタイルで考え込む。
アネリーゼ様は、何度も頷きながら、少し考え込むように虚空を睨みつけている。
「ここに入る前、身構えていただろう。なぜ、そうすることができた? まるで、誰かいることを知っているようだった」
今度はプロン様から質問が飛んできた。私はプロン様を見上げる。立っているプロン様と、跪いている私。高低差があるからか、プロン様が威圧的な態度を取っているように見えた。
私は不安によって口内ににじみ出すつばをごくりと飲み込む。数秒間、どう答えるべきか考える。
「私の両親は、情報部隊の者です」
「ほぅ?」
「なるほど、だから……」
「……ふぅん」
私の答えを聞いた彼らの反応はほぼ同じ。少し驚き、興味深そうに私を見てくる。私は詳しく話すか否か、迷った。ここまで話せば、もうすべて話すしかないことはわかっていたけれど。今更ながら、両親に良く言い聞かせられたことを思い出してしまう。
しかし、アネリーゼ様が促すようにじっと私の瞳をのぞき込もうとしてくるから、話すしかなくなってしまった。
「私は孤児院住まいですが、両親に捨てられたわけでも両親が死んだわけでもありません。両親が孤児だったので、孤児院で生まれ、孤児院で生活しているのです。彼らはそれぞれ適性を認められ、情報部隊にスカウトされました。両親は各々の弱点を補いあえるとても良いコンビだったので、そこから仲が深まり、結婚に至ったのです。私は父と母により適性を調べられました。そして、私は適性ありと診断されました。そのため両親から様々な教育を受けています」
いつしか、アネリーゼ様は虚空を睨みつけるのをやめ、私のほうをじっと見ていた。考え込んでいたルヨ様も、こちらを見ている。プロン様は相変わらず見下ろしたまま。私は細く、長く息を吐き出す。すこしだけ、唇を舐めて気を落ち着かせる。
これは、シエルにもスミアにも明かしていない、私の大事な秘密。情報部隊に入る者は、直前まで、正式に入隊が認められるまで誰かに明かしてはならない。
だから、これは嘘の話。とは言えど、大部分はあっている。私が両親と会うのはごくわずかな時間だけ。大体は情報部隊の教育係が教育しに来る。そこだけだ。
このことはアネリーゼ様はよく知っていることだろう。情報部隊の者たちが仕えるのはアストラル家の方々なのだから。現に、アネリーゼ様は少しだけ首をかしげている。
「なので……ドアノブの埃が、他の部屋には積もっている埃が綺麗に拭われていることに違和感を持ちました。些細なことからでも良い、常に注意を払い続ける事。これが、私に叩き込まれた知識のうちの一つです」
アネリーゼ様は段々と笑顔になっていく。面白い、と言いたげに、爛々と瞳が輝いて。それが少し、子供っぽく見えてしまう。
「それは面白い、ぜひもっと話を」
「アネリーゼ様、抑えてください」
ルヨ様が身を乗り出そうとするアネリーゼ様の肩をつかんだ。アネリーゼ様は一度固まった後、ゆっくりともとに、後ろに戻っていき、やがてすとん、と地面に尻をついてしまう。そして、自分をじっと見ている私に気づき、頭を掻く。
「いや……すまない。どうも自分が知らないことになると興味がわいてしまって……思わずそれにのめりこみそうになるんだ」
研究者のさがのようなものかな、とアネリーゼ様は恥ずかしそうに笑った。完璧に見えるこの人にも、少し無邪気な面があることを私は知った。
アネリーゼ様は咳払いをして、立ち上がる。私もあわてて立ち上がる。ルヨ様はいつの間にか音もなく立ち上がっていた。何者なんだろう、と思う。文官なのに、まるで情報部隊の人のようだ。
「さて……プレノ、すまないが、もう少し君の話を聞かせてもらうよ」
アネリーゼ様の表情は、先ほどとは打って変わって真剣な表情で、思わず、ごくり、と唾を音を立てて飲み込んでしまう。緊張して見上げる私としばらく視線を合わせていたが、やがて、ふっと表情を和らげる。
「さっきも言ったが、そんなに硬くならないで良いさ。と言っても、緊張してしまうだろうが……とにかく、一度場所を変えよう。この屋敷にはよく遊びに来ていてね。この屋敷のことはよく知っているのさ」
アネリーゼ様がウインクを決める。私を安心させるために明るく振舞っているのだとわかった。私は少し笑った。
「案内、よろしくお願いいたします」
「……調子に乗るなよ」
すぐに否定の意味合いが込められた声でたしなめられてしまい、私は思わず肩をすくめる。どん、と音がして、いっ、という声がして、アネリーゼ様が声をあげて笑った。



