「……困らせてしまったかな」
アネリーゼ様が困ったような声でそう私に話しかけてきて。私はぶんぶんと首を振って、アネリーゼ様のほうを見上げる。アネリーゼ様は、先ほどと同じように私のほうを見ていた。その顔に浮かんでいるのは声の通り困ったような笑顔。
「プレノは……私のことが怖いかい?」
もう一度、ぶんぶんと首を振る。しかし、私の口は縫い付けられたように動かなかった。先ほど、私が自分の名前を言えたことが奇跡のよう。
アネリーゼ様は静かに考え込むように、顎に手を当てて少しうつむいた。さらりとした髪が肩から流れ落ち、アネリーゼ様の顔に影を落とす。
瞳が少し伏せられ、口が引き結ばれる。それらすべてが、ほんのりとしたろうそくから発せられる光に照らされ、闇に浮かび上がる。それが美しくて、私は見とれた。
「アネリーゼ様、その子が気になるのですか?」
少年の声がアネリーゼ様の後ろから響く。私は思わずびく、と体を震わせてしまう。アネリーゼ様はゆっくりと顔を上げる。口がゆっくりと弧を描いていく。
そこで、私はアネリーゼ様の信頼のおける人なのだと気づく。そうでなければ、アネリーゼ様は笑ったりしないし……そもそも高貴な方なのだし、二匹馬がつながれていたし、側近のような存在がいてもおかしくはない。
私はアネリーゼ様の後ろに目を凝らす。ぼんやりと人影が浮かんでいるように見えた。
「ああ、とても気になるね。プロン、ルヨ。こっちにおいでよ。こんな魅力的な子はいないさ」
アネリーゼ様がそう後ろにいる人物に呼びかける。彼女が呼んだ名前の数は、二つ。私は疑問を覚える。
「二人……?」
どれだけ目を凝らそうとしても、気配を探ろうとしても、私にはあともう一人の人がどこにいるのか、どうしてもわからない。アネリーゼ様が私を見て、にやりと笑う。
私はその時、初めて自分の思考が声に出ていたことに気づいた。そして、アネリーゼ様を恥ずかしさを覚えながら見上げる。なおも、アネリーゼ様はにやり、と言う擬音語がぴったりな笑みを浮かべて、こちらを見下ろす。
「そう、二人だ」
アネリーゼ様がそう言った後に、とんとん、という弾むような足音と、こつこつ、というかっちりした足音が響き始めた。
アネリーゼ様は私に背を向けて足音が響く方を見る。私はアネリーゼ様の背中に隠れるようにしてアネリーゼ様に倣った。
ほどなくして、二人の人物がろうそくの灯りと窓から入る木漏れ日によりその姿を見せた。
アネリーゼ様が困ったような声でそう私に話しかけてきて。私はぶんぶんと首を振って、アネリーゼ様のほうを見上げる。アネリーゼ様は、先ほどと同じように私のほうを見ていた。その顔に浮かんでいるのは声の通り困ったような笑顔。
「プレノは……私のことが怖いかい?」
もう一度、ぶんぶんと首を振る。しかし、私の口は縫い付けられたように動かなかった。先ほど、私が自分の名前を言えたことが奇跡のよう。
アネリーゼ様は静かに考え込むように、顎に手を当てて少しうつむいた。さらりとした髪が肩から流れ落ち、アネリーゼ様の顔に影を落とす。
瞳が少し伏せられ、口が引き結ばれる。それらすべてが、ほんのりとしたろうそくから発せられる光に照らされ、闇に浮かび上がる。それが美しくて、私は見とれた。
「アネリーゼ様、その子が気になるのですか?」
少年の声がアネリーゼ様の後ろから響く。私は思わずびく、と体を震わせてしまう。アネリーゼ様はゆっくりと顔を上げる。口がゆっくりと弧を描いていく。
そこで、私はアネリーゼ様の信頼のおける人なのだと気づく。そうでなければ、アネリーゼ様は笑ったりしないし……そもそも高貴な方なのだし、二匹馬がつながれていたし、側近のような存在がいてもおかしくはない。
私はアネリーゼ様の後ろに目を凝らす。ぼんやりと人影が浮かんでいるように見えた。
「ああ、とても気になるね。プロン、ルヨ。こっちにおいでよ。こんな魅力的な子はいないさ」
アネリーゼ様がそう後ろにいる人物に呼びかける。彼女が呼んだ名前の数は、二つ。私は疑問を覚える。
「二人……?」
どれだけ目を凝らそうとしても、気配を探ろうとしても、私にはあともう一人の人がどこにいるのか、どうしてもわからない。アネリーゼ様が私を見て、にやりと笑う。
私はその時、初めて自分の思考が声に出ていたことに気づいた。そして、アネリーゼ様を恥ずかしさを覚えながら見上げる。なおも、アネリーゼ様はにやり、と言う擬音語がぴったりな笑みを浮かべて、こちらを見下ろす。
「そう、二人だ」
アネリーゼ様がそう言った後に、とんとん、という弾むような足音と、こつこつ、というかっちりした足音が響き始めた。
アネリーゼ様は私に背を向けて足音が響く方を見る。私はアネリーゼ様の背中に隠れるようにしてアネリーゼ様に倣った。
ほどなくして、二人の人物がろうそくの灯りと窓から入る木漏れ日によりその姿を見せた。



