「お客様かな?」
不意に、よく通る、凛とした響きの声が響いた。私は思わず身構える。声がしたのは、ちょうど私の真正面だ。
ぱちん、と指を鳴らす音が響く。それに追随し、ぼっぼっぼっと、ろうそくの灯がともる音が繰り返し聞こえ、その音とともに壁に備えついているろうそくの灯が次々と灯る。そのギミックで、この部屋の概要が、少しずつ明らかになっていく。
大きな本棚が壁一面に広がり、天井は高く吹き抜けのような状態になっていて、二階分は必ずあると思われるほど天井が高い。その天井のすぐそばにまで本棚が壁に張り付いていた。ぎっしりと本が詰め込まれている。あれは、全て数えたらどれだけの数になるのだろう。
度々扉が見えるのは、閲覧室だろうか。個人用が殆どだ、ここなら落ち着いて自分の時間を過ごすことができるだろう。もう、この場所がどんな部屋なのかは明白だ。ここは、図書室だ。
私は辺りを見渡し終えて、正面を向く。先ほど声がした方だ。ぼっ、ぼっ、とろうそくの火が灯るスピードが遅くなる。終いに、近づいているのだろうか。そして、その中心……突き当り付近にいる人物がだんだんとその姿を現していく。
ぼっ……ぼっ……ぼっ。
やがてろうそくの火がすべて灯り終え、その人物の姿が明らかになる。その人物は豪奢な椅子から立ち上がり、私のほうへと歩いてくる。
色素が薄いと思しきさらりと流れるつやのある髪。知的な光と好奇心をたたえた瞳。抜けるように白い肌。細く華奢な体つき。ブラウスにふわりとひろがるフレアスカート。
———羽織っているケープの留め具には、院長様の家紋。
「はじめまして。私の名前は、アネリーゼ・フローラ・アストラル。アストラル家の次女だ」
鈴を鳴らすような、儚さをまとったその美しい声に、私は本能的に跪いていた。跪いたあとに前から放たれるのは、威圧感を感じさせない、しかしそれでいてどこか神々しい、まさしく女神さまのようなオーラ。
そして、その名前、アネリーゼ・フローラ・アストラル。アストラル家は私たちの孤児院などを経営する一族。フローラは花、アストラル家の美しい者に与えられる称号。アネリーゼの名は孤児なら全員叩き込まれている。
———院長様の名前。
「顔を上げて。そんなにかしこまらなくていい。ここは私的な場だからね」
そういわれれば、顔を上げざるを得ない。こつ、こつとヒールの音を鳴らしてこちらに歩いてくるアネリーゼ様を、私は黙って見つめるしかない。
ゆったりとした歩調で歩き、私の数十メートルほど前に立ったアネリーゼ様は、静かにしゃがみこんで、私と視線を合わせる。
「こんにちは。貴方の名前を聞いても良い?」
私はごくりとつばを飲み込む。
「……プレノと申します。孤児、です」
アネリーゼ様は、ほう、と目を見開く。そして、すぐにその目は優しく、柔らかく細められた。
「初めまして、プレノ。こんなところで会えると言う事は、きっと神のお導きに違いないね」
ああ、と私は唇を噛み締めた。凛、と輝く光をたたえた瞳。その瞳は、どこまでも美しく、深く。そして……なぜだろう。胸が、疼く。
———運命の、人。
そのワードが、心をよぎった。私は再び、深く頭を垂れた。
不意に、よく通る、凛とした響きの声が響いた。私は思わず身構える。声がしたのは、ちょうど私の真正面だ。
ぱちん、と指を鳴らす音が響く。それに追随し、ぼっぼっぼっと、ろうそくの灯がともる音が繰り返し聞こえ、その音とともに壁に備えついているろうそくの灯が次々と灯る。そのギミックで、この部屋の概要が、少しずつ明らかになっていく。
大きな本棚が壁一面に広がり、天井は高く吹き抜けのような状態になっていて、二階分は必ずあると思われるほど天井が高い。その天井のすぐそばにまで本棚が壁に張り付いていた。ぎっしりと本が詰め込まれている。あれは、全て数えたらどれだけの数になるのだろう。
度々扉が見えるのは、閲覧室だろうか。個人用が殆どだ、ここなら落ち着いて自分の時間を過ごすことができるだろう。もう、この場所がどんな部屋なのかは明白だ。ここは、図書室だ。
私は辺りを見渡し終えて、正面を向く。先ほど声がした方だ。ぼっ、ぼっ、とろうそくの火が灯るスピードが遅くなる。終いに、近づいているのだろうか。そして、その中心……突き当り付近にいる人物がだんだんとその姿を現していく。
ぼっ……ぼっ……ぼっ。
やがてろうそくの火がすべて灯り終え、その人物の姿が明らかになる。その人物は豪奢な椅子から立ち上がり、私のほうへと歩いてくる。
色素が薄いと思しきさらりと流れるつやのある髪。知的な光と好奇心をたたえた瞳。抜けるように白い肌。細く華奢な体つき。ブラウスにふわりとひろがるフレアスカート。
———羽織っているケープの留め具には、院長様の家紋。
「はじめまして。私の名前は、アネリーゼ・フローラ・アストラル。アストラル家の次女だ」
鈴を鳴らすような、儚さをまとったその美しい声に、私は本能的に跪いていた。跪いたあとに前から放たれるのは、威圧感を感じさせない、しかしそれでいてどこか神々しい、まさしく女神さまのようなオーラ。
そして、その名前、アネリーゼ・フローラ・アストラル。アストラル家は私たちの孤児院などを経営する一族。フローラは花、アストラル家の美しい者に与えられる称号。アネリーゼの名は孤児なら全員叩き込まれている。
———院長様の名前。
「顔を上げて。そんなにかしこまらなくていい。ここは私的な場だからね」
そういわれれば、顔を上げざるを得ない。こつ、こつとヒールの音を鳴らしてこちらに歩いてくるアネリーゼ様を、私は黙って見つめるしかない。
ゆったりとした歩調で歩き、私の数十メートルほど前に立ったアネリーゼ様は、静かにしゃがみこんで、私と視線を合わせる。
「こんにちは。貴方の名前を聞いても良い?」
私はごくりとつばを飲み込む。
「……プレノと申します。孤児、です」
アネリーゼ様は、ほう、と目を見開く。そして、すぐにその目は優しく、柔らかく細められた。
「初めまして、プレノ。こんなところで会えると言う事は、きっと神のお導きに違いないね」
ああ、と私は唇を噛み締めた。凛、と輝く光をたたえた瞳。その瞳は、どこまでも美しく、深く。そして……なぜだろう。胸が、疼く。
———運命の、人。
そのワードが、心をよぎった。私は再び、深く頭を垂れた。



