結局高校生のうちに童貞を卒業するミッションはコンプリートできなかったが、無事に浪人生(フリー・ガイ)になることには成功した。予想通り江口と鈴木もどこの大学にも受からなかった。僕らは大渋谷ゼミナールという超小さな予備校のバカコース(本当にBコースという名称なのだ)に通うことになった(二人が現役の頃から通っていたところである。奈美ちゃんは明治大学に入ったのでもういない)。
 四月の渋谷はごみごみしていたが活気のある町で楽しい感じだ。
「大学なんてぶっちゃけどこでもいいんだよな。女が多いところなら」
「俺も入れればどこでもいい」
「オレはどうせすぐに家を継がなきゃならんからなあ。単なる時間稼ぎ」
 久遠苺は無事に慶應大学の文学部に入学したらしい。
「久遠様すげえよな」
「それでも家的には失敗なんだろ」
「じゃあどこなら成功なんだ」
「知らね。東大じゃね」
「俺たち親がバカで良かったよな。大学名なんて全然知らないもんな。日本マグロ大学に行くっつったらイイねとか言ってんだもん」
「あの神々しかった久遠様もチャラい大学生の餌食か。社会という海の藻屑と化したな」
「悲しいねえ」
 それにしてもあと一年何をやればいいんだろう。長いぞ浪人生活(フリー・タイム)。早めに勉強しすぎて燃え尽きる人がいるとよく聞くが勉強をしないまままた受験シーズンになりそうな気がしてコワい。
「そういえばバイク入荷したぞ」
「マジか。バイト代むっちゃ溜まってんから即金で払うぜ」
「物好きだなホンダダックスとは。スズキにしろよ」
「いや、バイクはホンダ一択だ」
「遅いぜ」
「速いバイクは怖いんだよ」
「おい、お前らそろそろ階段下(パラダイス)行こうぜ。二限が終わる」
「行ってみるかあ」
「スマホ機種変しなきゃだな」