ふわりと春の香りが教室の窓の方から香ってくる。数枚、美しく染められた桜の花びらが教室に舞い込んでくる。

「えー、本日から皆さんは綿吹高校の一員だという自覚を持ち——」

 頭が堅そうな先生は、僕の記念すべき高校生活初の担任だ。

 新入生ということもあってか、皆真面目に先生の話を聞いている。この先生の雰囲気からしてきちんと聞かないと怒られそうな気もする。

 皆が前を向き、背筋をピンと伸ばしている中で、僕の席の隣の女の子は手に本を持ち、読書していた。

 先生の話など耳に入っている様子は全くない。

 先生は気づいていないのか、無視しているのか、注意をしない。

 なぜだか僕は、その姿をじっと見つめてしまっていた。

 綺麗な髪だ。肩まで綺麗に切り揃えられた黒髪は、窓際の席であることも相まって美しく靡いている。

 真新しい制服は規則通り着られていて、シワの一つもない。

 本を持つ手はしなやかで、肌は雪のように白く、関節部分はほんのり桜色に色づいている。

 長いまつげは目を細めているからか、枝垂れ桜のように垂れていて、彼女の視界を邪魔している。

 きめ細かい肌に、整った形状の鼻。

 唇は薄く、少し口角を上げている。

 彼女はそうっと邪魔になった髪をかきあげ、ゆっくりこちらを向いてくる。

 僕の目を見て、鼻を見て、口を見て、耳を見て、お腹から足の先まで見て。

 そうして彼女は上がっていた口角をもう一段階上げ、僕に微笑んだ。

「っ、」

 儚げで、美麗で、繊細で、触れたら壊れてしまいそうな、隣の席の女の子。

 入学初日。僕は不覚にも、恋に落ちてしまった。