翔、
冷たく、涼しい、澄んだ風が吹き抜ける。風に撫でられ、野に広がって生える草が揺れる。所々に咲き、緑に塗られたキャンバスに、様々な色どりを与える花も、揺れる。
ふわっ、
抜けるように白い、細い、絹のような髪が、風に流され、靡く。少女は、自分の髪を、たおやかな白い手で、そっと抑えた。少女の肌は、病的なほどに白かった。青白い、と言っても差し支えはない。そんな少女が身に纏うのは、漆黒のワンピース。ウィザード・スリーブの袖口を、オーバースカートの裾を、はためかせながら、少女は歩く。
じゃり、
草を踏みつけ、土が擦れる音を出しながら、誰もいない野原を、宛もなく、歩く。側にあるのは、風の音だけ。少女の紺色の瞳に映るのは、少女の頭上に広がる、真っ青な空。雲一つない、乱れ一つない、空。ただ一つ、太陽だけが、真っ青なキャンバスの中心にある。眩い光を撒き散らし、少女の周りに広がる野原の草に、花に、恵みを与える。
すう、
少女は、息を吸い込む。少しだけ、貧相な胸元が膨らんで。吐き出された息とともに、また、まっ平な姿へと戻る。空に手を伸ばし、何かをなぞるように、指を動かす。
「万物に、光と恵みを与えし物……輝く、もの……」
ぽつり、と独り言を一つ。それは風に攫われ、溶けて消える。誰にも伝わらぬまま。風と、草と、花だけが聞いている中。少女の口の端が、ゆっくりと上がっていく。皮肉めいた笑みを浮かべ、少女はため息をついた。
ぱたん。
空へ掲げていた手が、重力に従い、少女の体の脇へと落ちる。その動きを追うように、足元へ視線を下ろす。先ほどまで眩い光を見ていたからか、目がちかちかと瞬く。明滅する視界に広がる、緑。ふと、むせ返るような命の匂いを、感じる。嫌悪感が、湧き上がって。
ぐり、
足を動かす。少女に踏みにじられた草は、千切れ、傷み、命を失い、風の前で風前の灯火の如く、その儚い姿を晒す。風が可哀そうに思ったのか、その草切れを高く、高く、飛ばす。
少女はしばらくそれをじっと見ていたが、やがて視界から草切れが消えてしまう。諦めたのか、気を取り直したように、再び、歩く。
少女が歩くたびに、草が千切れる。
千切れる。千切れる。
千切れる。千切れる。千切れる。
千切れる。千切れる。千切れる。千切れる。千切れる。
———千切れる。
いつのまにか、少女の通った道からは、命が消えていた。ただ、踏み躙られた、命を消された草切れが、そこに散らばるだけ。屍と化した草が。まるで、人のように死んだ姿を露わにして……
「一つ。また一つ。泡が弾けるように、命は壊れる。失われる」
謳うように、少女は言葉を紡ぎだす。
ふわり。
しゃぼん玉が、少女の周りを、泳ぐ。
ふわり。ふわり。
一つ。また一つ。少女の周りのしゃぼん玉は、一人でに増えていく。
少女のいる世界には、光なんて物はもうなくて。どんよりとした灰色の、もくもくと煩い雲が、空を覆う。千切れた草は、即座に枯れ、枯れ草が、満ちる。
「泡沫の命。貴方は、どう生きる?」
誰かに囁くように。少女は足を止めた。腰をひねり、首を後ろへひねる。自分の背後を見ながら、
にたり。
少女は笑う。
悲鳴。
冷たく、涼しい、澄んだ風が吹き抜ける。風に撫でられ、野に広がって生える草が揺れる。所々に咲き、緑に塗られたキャンバスに、様々な色どりを与える花も、揺れる。
ふわっ、
抜けるように白い、細い、絹のような髪が、風に流され、靡く。少女は、自分の髪を、たおやかな白い手で、そっと抑えた。少女の肌は、病的なほどに白かった。青白い、と言っても差し支えはない。そんな少女が身に纏うのは、漆黒のワンピース。ウィザード・スリーブの袖口を、オーバースカートの裾を、はためかせながら、少女は歩く。
じゃり、
草を踏みつけ、土が擦れる音を出しながら、誰もいない野原を、宛もなく、歩く。側にあるのは、風の音だけ。少女の紺色の瞳に映るのは、少女の頭上に広がる、真っ青な空。雲一つない、乱れ一つない、空。ただ一つ、太陽だけが、真っ青なキャンバスの中心にある。眩い光を撒き散らし、少女の周りに広がる野原の草に、花に、恵みを与える。
すう、
少女は、息を吸い込む。少しだけ、貧相な胸元が膨らんで。吐き出された息とともに、また、まっ平な姿へと戻る。空に手を伸ばし、何かをなぞるように、指を動かす。
「万物に、光と恵みを与えし物……輝く、もの……」
ぽつり、と独り言を一つ。それは風に攫われ、溶けて消える。誰にも伝わらぬまま。風と、草と、花だけが聞いている中。少女の口の端が、ゆっくりと上がっていく。皮肉めいた笑みを浮かべ、少女はため息をついた。
ぱたん。
空へ掲げていた手が、重力に従い、少女の体の脇へと落ちる。その動きを追うように、足元へ視線を下ろす。先ほどまで眩い光を見ていたからか、目がちかちかと瞬く。明滅する視界に広がる、緑。ふと、むせ返るような命の匂いを、感じる。嫌悪感が、湧き上がって。
ぐり、
足を動かす。少女に踏みにじられた草は、千切れ、傷み、命を失い、風の前で風前の灯火の如く、その儚い姿を晒す。風が可哀そうに思ったのか、その草切れを高く、高く、飛ばす。
少女はしばらくそれをじっと見ていたが、やがて視界から草切れが消えてしまう。諦めたのか、気を取り直したように、再び、歩く。
少女が歩くたびに、草が千切れる。
千切れる。千切れる。
千切れる。千切れる。千切れる。
千切れる。千切れる。千切れる。千切れる。千切れる。
———千切れる。
いつのまにか、少女の通った道からは、命が消えていた。ただ、踏み躙られた、命を消された草切れが、そこに散らばるだけ。屍と化した草が。まるで、人のように死んだ姿を露わにして……
「一つ。また一つ。泡が弾けるように、命は壊れる。失われる」
謳うように、少女は言葉を紡ぎだす。
ふわり。
しゃぼん玉が、少女の周りを、泳ぐ。
ふわり。ふわり。
一つ。また一つ。少女の周りのしゃぼん玉は、一人でに増えていく。
少女のいる世界には、光なんて物はもうなくて。どんよりとした灰色の、もくもくと煩い雲が、空を覆う。千切れた草は、即座に枯れ、枯れ草が、満ちる。
「泡沫の命。貴方は、どう生きる?」
誰かに囁くように。少女は足を止めた。腰をひねり、首を後ろへひねる。自分の背後を見ながら、
にたり。
少女は笑う。
悲鳴。



