一度学習できたら、その事を反省として活かして行動できるというのが彼の強みだった。だからこそ、彼の交友関係はこれだけに留まらないのは龍の振る話題からは見えていた。なおも、その強みは恋愛絡みでは微塵も活かされないのだが……。
 全員昼食が食べ終わり、自然と解散したそのすぐ後だった。
「あの、高野さんいらっしゃいませんか?」
 教室のドアが開かれた後、高い声で誰かを呼んでいる事が聞こえる。……いや、このクラスに高野という苗字は、和也しかいない。つまり、
「……伊豆野、さん?」
「あ、いた! 高野くん!」
 こちらの存在に気づいた凛は、すぐ傍に駆け寄ってきて。
「せっかくだから、ちょっと見てもらいたい事があって。いいかしら?」
「え?」
 和也はすぐに龍の方を見る。龍は唖然としたように、この場面を真っすぐと見ていた。他のクラスメイトは、一瞬凛の方に注目はしたものの、すぐに興味が消えたのか誰もこちらを向いていない。
 ……これは、下手したら不味い場面なのでは?


「う、うそだろ和也……お前やっぱり」
 龍から、漏れ出る様に聞こえてくる。これは、かなり不味い奴では。
「ご、ごめん! とりあえず来ればいいんだっけ?!」
「え? そ、そうだけど……」
「わかった! それじゃあ今すぐ行く」
「えっ?! ちょっと先に出ないで!」
 急に飛び出していった和也の後を、凛は追いかける。その後、教室では龍の友人が、彼をなんとか慰めるのに必死だったのを和也は後々聞いた。

  *

「はぁ……はぁ……もう! 何で急に飛び出すのよ!」
「ご、ごめん。あいつにあの状況見られたら完全に不味くって……」
 どこで用事があるのか聞かずに飛び出していった和也が完全に悪かったといえ、今いる場所は、凛が見せたい所がある。と言った所とは全然違う校舎の廊下だった。
「あいつ……ってもしかして、ずっとこっち見てた子?」
 凛は、和也の言い分を聞いて不味い状況の原因が何なのか少し、理解してくれたようだ。
「まあ、面倒くさい事になるんだ。女子絡みになると」
「そっか……大変、だね」
 少しだけ凛に迷惑をかけてしまった。和也はこういう時に、気が利ける行動が取れるわけではないが。
「……そういえば、用って?」
「あ……そうだった。是非、見てほしいものがあって」
 凛はそう言うなり、歩き始める。
「一緒に来てくれないかな?」

 そうして、歩いた先にあったのは家庭科室……前に凛と出会ったところだった。
「見てほしいものって?」
 和也がそう尋ねると、凛は「中に入ったらわかるよ」と答えて、家庭科室の扉を開けて入っていく。和也はその後を追う様に家庭科室に入っていった。
 家庭科室の扉を閉めた後に、中を改めて見る。ミシンが横に陳列されている場所。積みあがった椅子。そして、六人は余裕で囲める大きさの机。
 和也自身も授業で家庭科室に入る事はあるが、その時とは全然違う景色……と言う事もなかった。凛が見せたいものがある、と言って来た訳だけど一体どのことを指しているのだろうか。
「いつもは隣の部屋に保管しているので、ちょっと座って待ってて」
 凛はそう言って、一つ椅子を置いた後、その部屋の方へと入っていった。
 和也は彼女の言葉通りに、置かれた椅子に座る。

「お待たせ。見てほしいものってこれなんだけど……」
しばらく経って何かを持ってきた凛は、その手に持っていたものを和也に見せる。
「これは……」
 彼女の手にあったのは、猫のぬいぐるみだった。
「文化祭で展示する予定の作品の一つ。これは私が作ったぬいぐるみなんだ」
「へえ……! これ、伊豆野さんが作ったのか」
 凛が部活動で作っているものを見てもらい、和也は正直凄いと思った。それと同時に、彼女がこれを見せてきた事に対して、少し疑問があった。
「そういえば、俺にどうして見てもらいたかったんだ?」
「あー……なんて言えばいいかな」
 凛は言い出そうか、どうか少し悩んでいる様子だった。しかし、
「急にこうしてもらってまで、見てもらったんだと理由がわからなくても仕方ないか」
 そう言いだすと、彼女は理由について答えた。
「この前手助けしてくれた時に、何かお礼しないとって思って。それで、とりあえず自分の作品を見てもらうのがいいかなって考えて……そんな感じ」
「手助けって……あの時のか」
 前の放課後に、凛が困っていたのを助けた時の事を話しているのだろう。つまり、これは彼女のなりにお礼をしようとした事なんだろう。
「あ! もちろん、見てもらうだけじゃなくって!! 気になるものがあったら、プレゼントしようかなとも考えてたの!」
「え、いや。そこまでしなくても良いよ」
 和也としては、そこまで考えてくれるのは嬉しかった。けれど、