記憶の中の彼女

 確実に回避できる方法なんてものは存在しない。けれど、神やそうした力を持つ存在が出来るだけ介入せずに人間だけで行動を起こす事で、回避できるかもしれないという話だった。
「……回避できる可能性を出来るだけ高めるにはどうすれば?」
 その顔は、不安だと言わんばかりの顔だ。
 動じていない様に見えてもそれはよく見ると、歯を少し食いしばって、手を強く握りしめている様子が見えた。
「……今から説明する」
 今の段階で出来る事は、その悲劇が起きる時に彼女に近い人物が介入していく形に持っていくようにする事だった。この場合は、直前で凛と仲良くなっていく……高野くんだった。彼がこの悲劇を回避するように行動させる様にすればいい。その前に、数々の条件について話をする事になった。
 少年の様な存在は今、静に話している様に将来起こる事を伝える事……具体的には予知の内容を伝える事だけなら介入した事にはならない。まだ、運命が強制的に出来事を起こそうとする段階ではない。
 今回の場合、あくまで強制的な力が働くのは凛が火災に巻き込まれるのを少年が直接どうにかする事だけだ。つまり、それを回避する様に動かせばいい。
「……けれど、それには代償が必要となる」
「代償……?」
 少年は可能性がある事を伝えた上で、静にこの事を付きつけなければいけない事があった。
「まず、未来の出来事を僕に協力させる形で回避させたいなら静は何かしらを犠牲にしなければいけない……それが、命とかそうしたものだとしてもね」


 静が将来、どの様な事になるかを伏せた形で少年はその代償というものを説明する。
 直接火災に関する現象をどうにかしない限り、神といった存在相手でも介入する事はまだ許されているが、それでも限りなくタブーに近い。しかし、
「まず、君の妹の身に起きる悲劇を回避させる様に仕向けさせるには僕の協力込みで仕込みをしないといけない可能性が高いと考えている」
 未来に起きる大きな出来事を変える事は、何の力も無しに変える事はかなりの高難易度だった。不可能ではない。けれど、限りなく不可能に近い事を行わなければいけないというのが事実だった。
「ただ、僕の仕込みを入れるなら、だ。誰かと『契約』と言う形で僕がその様に動かせないといけない」
 けれど、それをするには静には大きな代償を背負わせないといけない。
「けれど、その契約はその人にとって大きな物を代償として失わなければいけない……例えば、命とかそういうものだ」
 今更ではあるが、助けられると言っておいてこんな重要な事を後から言ってしまうのはどうかと思えた。やっていたのは、少年自身ではあったけれど。
 代償について具体的に出てきたものを聞いた静の様子は、少し変わった様子だった。しかし、次に出た言葉に驚かされる。
「わかったわ。それならその『契約』を受ける」
「なっ……」
 あまりにも、あっさりと言ってのけた静に少年は驚愕をする。
「……自分で言っておいて、こんな事を言うのはおかしいけれど。静は妹を助けるためなら死んでもいいって言うのか?」
 どちらにしろ、彼女は間もない時期に亡くなる事は予知で知っていた。もし契約をしたとしても少し死期が早まる程度、ではあるけれどそれでも少年はそんな簡単に命を捨てるなんて選択肢をしようとする事が信じられなかった。
「……あなたなら、わかると思うけど私は病気がちだったの」
 静が、語り掛ける様に話をし始める。
「病院の先生も言っていたけれど、多分私はこの先は長くないかもしれない。先が長くないなら、私は何か大事なものを守るために残りの時間に全力を注ぎたい。それなら、契約が命を貰う事でも、それで妹を助けられるって話なら」
 静は間を置いて、そう断言した。
「私は、契約を受ける」
 少年から見たらここまで強い意志を見せられたら、何も反論する事はできない。
 妹を助けるために、ここまでの事をしようとする彼女を目の前にやっぱり『契約』はしないという選択は付きつけられなかった。
 だから、少年もその意志を汲み取る選択肢を取る事にした。
「……わかった、それじゃあ以下の事をやる」
 少年は契約の内容として、以下の仕掛けを行う事を決めた。
 まず、高野……彼に確実にあの悲劇を回避してもらうためにもし一度回避に失敗したとしても時間を巻き戻す様にして、自分がこの状況を説明するという風に『契約』した。そこで、静はこんな事を話す。
「何かしら、彼が納得してくれるような証拠を今の内に残しておきたい」
「わかった……どうするんだい」