彼女は、泣いていなかった。もしかしたら、姉が亡くなったという事実を理解できていないのかもしれない。けれど、少年の目には見えている。その手には姉に教えて貰った折り紙たちがある事を。
『……静の事が、大好きだったんだろうね』
少年は呟いた。
それから、小さかった少女が成長していくまでの過程が見えていた。
ある日、友達とちょっと変わった事に挑戦したり、そのまた別の日は失敗したり、そのまた別の日は、新しい事に挑戦して新しい発見をしたり。
彼女の人生は、色とりどりだった。
『前向きに、過ごしているんだね』
けれど、時折彼女は静の事を思い出すのか。
たまに見える時があるが、それは姉の墓参りの時だ。
『お姉ちゃん。私、元気でやっているよ』
言葉だけは明るい。けれど、その顔は決して明るさだけでは言い表せない表情だったと思う。目は真っすぐ墓を向いている。口角は上がっている。けれど、どこか後ろ向きなそんな複雑な表情。
やはり、幼い頃に大好きだった姉を亡くしたという経験は彼女にとっては重いものだったのだろう。
そんなある時。彼女の周囲で変わった事が起こる。
『あ、……何かあった?』
凛が話しかけた時、その男子は何だか彼女にとっては特別なものだと感じていた。
クラスは一年、二年ともに別だったのは間違いないその男子ではあったが、凛にとってはその男子との出会いとそれからの会話は何だかいつもと感触が違う様子だった。
『私は……伊豆野凛って言います。今日はありがとう』
凛は、その男子に助けてくれた事に対するお礼をした。
彼女はその男子の事を高野くん。そう呼んだ。彼と出会ってから、二人の交流が段階的に始まっていく様子を見せていた。たまたま、偶然。そうした出来事が凛にとって意識していく最大の理由になっていったのだろう。
この予知を始めてから、何だか段々と彼との話の比重が大きくなっていった様に思える。
その間も、部活動とかの様子が見えていた。けれど、それ以上に大きかったのは高野くん、と呼ぶあの男子との交流だっただろう。
『凛は、そんなに気になる相手だったんだろう……』
彼女の思い出の中でも彼の思い出話は特に比重が大きい。
それだけ、彼女の中で高野くんの存在は大きかった……のだろう。
『……ん?』
それから少年は何かしらの違和感を抱き始める。
??なんだか、これから先が見えてこない様な……。
『ゲホッ……ゴホッ』
気が付くと、彼女の周囲は燃え盛る炎に包まれていた。
『た、す……け……て……』
彼女の力のない声を最後に、予知は終わりを告げる。
「……どうしたのかしら?」
少年は、静の心配する声を聞いた。
本当はこれをする事は大分タブーに近いだろう。けれど、今の少年には伝えなければいけないという使命感に駆られていただろう。
「……君の妹さんについて、だけれど」
「……そう」
少年から、自分の妹の身に起きる悲劇を聞いた静の顔は今までにないくらい険しいものだった。それはそうだろう。
気になる人が出来た。それからすぐに凛は火災に巻き込まれて命を……。そんな未来を告げられたら、大体の人は嘘だと思うだろう。けれど、相手は神と言っても良い存在から告げられた話だった。
静からしたら嘘と、考えられない理由としては十分だっただろう。
「それは、回避できる事?」
「……僕が介入したら、出来るだろう」
少年はこの事を告げた以上、この悲劇を回避させようという考えでいた。それだけ、ただ一人の女性に肩入れしてしまっていたのだろうか。
「けれど、介入が大きすぎるとその悲劇を回避する事は出来なくなるだろう」
「それはどうして?」
「僕たちの様な存在が、決められた運命に介入をするのは許されない」
もし、少年一人の力で解決しようとしてもまたすぐに違う時期に似たような悲劇が起きてしまう様に設定されてしまう。しかも、その設定は確実になされる。それではただ少し延命しただけに過ぎない。
そうした、説明をすると静は黙り込む。
妹の身に起きる状況をどうすればいいか、深く考えているのだろう。
「……もし、あなただけでなく私や誰かが介入したとしたら?」
「……その場合、新たに代わりとなる悲劇が設定される事は殆どないだろう」
あくまで、神とかではなく人間だけである出来事を変えた場合、だ。
神が介入した場合と異なり、あくまで人間が自力で行動して変えた場合は代わりとなる出来事が設定される、という事態は起きにくくなる。
「けれど、これも問題がある」
これは確実な話ではなかった。
確定された出来事はないものの、その出来事が起きえる力の強さによっては運命的にその出来事を起こそうと強制的に起こしてくる可能性があった。
『……静の事が、大好きだったんだろうね』
少年は呟いた。
それから、小さかった少女が成長していくまでの過程が見えていた。
ある日、友達とちょっと変わった事に挑戦したり、そのまた別の日は失敗したり、そのまた別の日は、新しい事に挑戦して新しい発見をしたり。
彼女の人生は、色とりどりだった。
『前向きに、過ごしているんだね』
けれど、時折彼女は静の事を思い出すのか。
たまに見える時があるが、それは姉の墓参りの時だ。
『お姉ちゃん。私、元気でやっているよ』
言葉だけは明るい。けれど、その顔は決して明るさだけでは言い表せない表情だったと思う。目は真っすぐ墓を向いている。口角は上がっている。けれど、どこか後ろ向きなそんな複雑な表情。
やはり、幼い頃に大好きだった姉を亡くしたという経験は彼女にとっては重いものだったのだろう。
そんなある時。彼女の周囲で変わった事が起こる。
『あ、……何かあった?』
凛が話しかけた時、その男子は何だか彼女にとっては特別なものだと感じていた。
クラスは一年、二年ともに別だったのは間違いないその男子ではあったが、凛にとってはその男子との出会いとそれからの会話は何だかいつもと感触が違う様子だった。
『私は……伊豆野凛って言います。今日はありがとう』
凛は、その男子に助けてくれた事に対するお礼をした。
彼女はその男子の事を高野くん。そう呼んだ。彼と出会ってから、二人の交流が段階的に始まっていく様子を見せていた。たまたま、偶然。そうした出来事が凛にとって意識していく最大の理由になっていったのだろう。
この予知を始めてから、何だか段々と彼との話の比重が大きくなっていった様に思える。
その間も、部活動とかの様子が見えていた。けれど、それ以上に大きかったのは高野くん、と呼ぶあの男子との交流だっただろう。
『凛は、そんなに気になる相手だったんだろう……』
彼女の思い出の中でも彼の思い出話は特に比重が大きい。
それだけ、彼女の中で高野くんの存在は大きかった……のだろう。
『……ん?』
それから少年は何かしらの違和感を抱き始める。
??なんだか、これから先が見えてこない様な……。
『ゲホッ……ゴホッ』
気が付くと、彼女の周囲は燃え盛る炎に包まれていた。
『た、す……け……て……』
彼女の力のない声を最後に、予知は終わりを告げる。
「……どうしたのかしら?」
少年は、静の心配する声を聞いた。
本当はこれをする事は大分タブーに近いだろう。けれど、今の少年には伝えなければいけないという使命感に駆られていただろう。
「……君の妹さんについて、だけれど」
「……そう」
少年から、自分の妹の身に起きる悲劇を聞いた静の顔は今までにないくらい険しいものだった。それはそうだろう。
気になる人が出来た。それからすぐに凛は火災に巻き込まれて命を……。そんな未来を告げられたら、大体の人は嘘だと思うだろう。けれど、相手は神と言っても良い存在から告げられた話だった。
静からしたら嘘と、考えられない理由としては十分だっただろう。
「それは、回避できる事?」
「……僕が介入したら、出来るだろう」
少年はこの事を告げた以上、この悲劇を回避させようという考えでいた。それだけ、ただ一人の女性に肩入れしてしまっていたのだろうか。
「けれど、介入が大きすぎるとその悲劇を回避する事は出来なくなるだろう」
「それはどうして?」
「僕たちの様な存在が、決められた運命に介入をするのは許されない」
もし、少年一人の力で解決しようとしてもまたすぐに違う時期に似たような悲劇が起きてしまう様に設定されてしまう。しかも、その設定は確実になされる。それではただ少し延命しただけに過ぎない。
そうした、説明をすると静は黙り込む。
妹の身に起きる状況をどうすればいいか、深く考えているのだろう。
「……もし、あなただけでなく私や誰かが介入したとしたら?」
「……その場合、新たに代わりとなる悲劇が設定される事は殆どないだろう」
あくまで、神とかではなく人間だけである出来事を変えた場合、だ。
神が介入した場合と異なり、あくまで人間が自力で行動して変えた場合は代わりとなる出来事が設定される、という事態は起きにくくなる。
「けれど、これも問題がある」
これは確実な話ではなかった。
確定された出来事はないものの、その出来事が起きえる力の強さによっては運命的にその出来事を起こそうと強制的に起こしてくる可能性があった。



