記憶の中の彼女

 あの事を、確かめなければいけないという気持ち。

 そして、文化祭当日。
 文化祭一緒に行こうぜ! と誘って来た龍に対して素直に凛と文化祭を回ると告げた時にすんなりと受け入れた事にも驚きだったが『ちゃんと良い思い出にして来いよぉ~』と涙目で訴えかけてきたのにもかなり驚きだった。
 そんな事があったけれど、和也は今凛と文化祭を回っていた。
「和也くん、見てよ! この絵とか凄いよ?」
 凛はかなり楽しそうに、展示物を見ている。
 高校の文化祭は二度目ではあるが和也は、今年の文化祭は何だか特別な様に感じられた。前年はクラスの催しを少し手伝うくらいで終わっていたけれど、今年は色々と大変だったと記憶している。
 なんだろうか、やはりこれだけ色々していたのは凛と出会ってからだった様な……。
「本当だ。凄い描きこみ量だ」
 凛の話を聞いた和也はその凄い、と話していた絵を見てみた際にそんな感想が出るほどの凄い絵だった。
 地元、潟ケ谷駅の中心部分をスケッチしたものなのだがその描きこみは少なくともプロとして活動してないただの一高校生が描いたものだとは思えないくらいの描き込みだった。通行人とか、建造物とか描かれている物の解像度が高いのだと素人目ながら伝わる絵だった。
「美術部の子にこんな凄い絵を描く人がいるんだ~、私ちょっと話してみたいかも」
「俺も、どんな人が描いたのかは気になるかな……」
 今、来ている美術部の展示コーナーはたくさんの人が来ている。
 この高校では、文化祭は一般の人にも入場許可が下りているので近くから来た人が多く、こうしてこの高校に通っている人たちがこの祭りのためにやってきた努力の成果をこうして見に来てくれている。
「手芸部の展示、凄く人気みたいで本当に良かったなあって思うよ」
「そうだなあ」
 凛が部長を務める手芸部の展示も、皆が考えて作った作品群が色々な個性があって楽しめるとかそうした反響を得て人気となっている様子だった。
 自分が直接何かやったわけではないのに、展示の方向性を定めたのは和也の一言がきっかけだった。だからなのか、凄くむず痒い気持ちになっている。本当に、なんだか嬉しいような恥ずかしいような何とも言えない……そんな気持ちが渦巻き続けている。
「本当に、和也くんが色々手助けしてくれたお陰だよ」
「そう?」
「そうそう。多分、和也くんの手助けが無かったら上手くいかなかったって実感があるの」
 それは、同時に自分の能力不足に起因している事でもあるけどね……と凛は呟いた。和也としては凛がそういう考えに至る理由もわかってしまう。
 凛は責任感が強い。
 だからこそ、和也の手助けが無かったら部長として義務とでも言える様な、意見のまとめや指示といった事が上手く行えなかった事には後ろめたい物があったのだろう。
 けど、和也は気休めと捉えられるかもしれないと思いながらも彼女に対してフォローを務めようと試みた。
「でも、最終的に凛が動いてくれたからこうして展示も間に合ったりした訳で。決して能力不足なわけではないんだと思う」
「……そんな風に、言ってくれるんだ」
 凛はなんだか、驚いた様子だった。
 そして和也は続けてこんな風に話す。
「でも、それでも。やっぱり自分として反省したい事があるのって大事だと思うし。そういう反省点とか、洗い出せないとより一歩進めないと思うんだ」
 和也は伝えたかった。
 凛が、今やっている事も大事なのだと。そうして反省していく事もまた大事なのだと伝えたかった。
「……そっか、それもそうだね」
 凛は色々と、思い出したのか少し寂しい声音だった。
「うん! なんだか和也くんがそう言ってくれると私嬉しいかな」
 そうして、彼女はまた笑顔を見せる。けれど、和也はその笑顔は今まで見た笑顔の中だととても純粋に眩しいものだという風に感じた。
 それだけ、明るい笑顔だと思った。


  *

「さて」
 少年は、この山の中で一人佇んでいた。
 一人でここまでの事を振り返る。そろそろ和也が、行動に打ってくれる事を期待して伝えた事。
 無事に、彼女の身に起きる悲劇を回避したその先で。
「静、もうすぐ君との約束を完全に果たせそうだ」

  *

 美術部の展示を見た後も、和也は凛と文化祭を巡り続けていた。
 この高校の文化祭は一日間の開催で、その中で様々な催しが行われている。一番の目玉は、体育館で行われるステージだ。終わり間際に行われる演劇を見たい、と凛が話した事で最後に行く事は決定済みだ。
 そして、校舎では先ほどの様に展示コーナーとかもあるが他にもちょっとしたゲームが楽しめるコーナー等をクラスや部活単位で行っている。
 和也たちはそうした高校の文化祭の催しを楽しんでいた。
「本当に、今日は良かったなあ」