「それなら俺と一緒に帰ろう」
「え?! そんな急な事言われても」
「いや、いくらなんでも一人で帰るのは危険だと思うから」
 そういうと、凛は少し目を細める。一体何がおかしいんだと思うが。
「高野さんはそんな事しないとは思うけど……それを理由に私に対して何かしよう、と考える事ができると思うけど」
「……あっ」
 凛の視点から見ると、まだ知り合ったばかりの男子と帰る事は、それはそれでリスクのある行為だと言う事だ。和也は凛の言い分を聞いて、遅くともその事に理解した。
「ま、まあ……そういう……伊豆野さんにとって危険な事をしないって約束するのでせめて、家の近くまで一緒に帰る様にはした方がいいんじゃないか?」
「……まあ、わかった。私の事を助けた辺り、悪い人ではないとは思うから……ただ、帰り道ってどっち方面?」
「ああ、帰り道ね」
 そう言われて和也は概ねの帰り道について、伝えると凛はなるほどとまた、先ほどの顎に手を置く仕草をする。どうやら彼女は何かしら考える際は考える人の仕草をするらしい。
「……それなら、確かに途中まで一緒ね……概ね駅辺り」
「駅……って伊豆野さん、電車通い?」
 駅という単語に引っ掛かった和也はそう質問すると「うん」と彼女は肯定する。……電車通いなら余計に遅くなるだろう、というかそれなら親は心配しないのか?
「結構、遅くなると思うけど親は……心配してない?」
「親……か。心配してるかに関しては問題無い、と思うかな」
 無い……。どういう理由でないのかはわからないがあまり触れない方が良さそうな気もする。知り合った相手、という事もあるしあまり踏み込み過ぎても避けられるだろう。
「それじゃあ、帰る準備はできてるの?」
「もちろん! 部室から荷物を持って部室を閉めて鍵を職員室に返せばすぐに行けるからね」
 それは、結構時間がかかるようだった。

  *

「おまたせ! 待った?」
「いや……まあ、そんなには」
 凛がそう言いながら現れている。肩から降りる様にかけられたカバンを見るに、問題なく帰宅の準備はできているようだった。
「そんなに……って何?」
「ああ、いや……別に待ってないというか」
「ふふっ、冗談だって」
 少し不味い事を言ってしまった、と思ったがそうでもなかったそうだ。心臓には少し悪い冗談だったけれど。
 けれど、本当に準備をした後なのだろうかと思うぐらいには凛の様子はハキハキとしていて疲れがないように見える。連日夜になるまで一人で準備をしているのはかなり大変だと思う。
「ただ……部活の皆はどう思ってるんだ?」
「どうって?」
「そりゃあ伊豆野さんが毎日、一人で遅くなるまで準備を続けてる事だよ」
 ああ、それは……と付け足す様に凛は話す。
「確かに今日は私一人だったけど、いつもは誰かが手伝ってくれるのよね。片づけ」
「え、そうなの?」
 勝手に毎日一人でやっているのかと勘違いをしてしまった。和也は誰かがストッパーをやっているんだろうな……と思いつつ話を続ける。
「というか、何で今日はたまたま?」
「それは皆、他の用事が入ってて学校側の決めた時間までに帰らないと行けなかったからなの。高野さんはもしかしていつも一人でこんな事してるって思った?」
「うっ」
 どうも、話しぶりから凛に気づかれていたようだった。
「そりゃあ……こんな割と遅い時間まで付き合えるなんて難しいからな……俺だって予定をちゃんと開けて今日は割と最後までいたし」
「え? じゃあ高野さんも何か理由があって」
 もちろん、と付けたすように和也は今日、龍の勉強の面倒を見ていた事、そしてそうなった経緯の事を話す。
「……その友人、結構ノリの軽い人なんだね?」
「……まあな」
 凛はそう言いながらも、少し呆れた様子を見せてはいた。恐らくではあるが、凛はその辺りもちゃんと怠らずにやっているからだろう。
「だからこそ、見捨てられないっていうか。そんな感じ」
「……ふふふっ」
 凛は笑い出す。何か変な事を言ったのかと一瞬不安になって。
「な、なんか変な事言った?」
 と思わず口走る。少し冷や汗をかいたが凛は「わ、そんな可笑しいから笑ったんじゃなくて」と少し慌てる様子を見せると。
「その……城築さんって人を大事な友人だって思ってるのが伝わるな~って思って」
「え、そう?」
 自分ではそう思っていなかったから、思わず口から漏れ出てしまった。
「そうだって! じゃないと、見捨てられないとかそういう事言えないもの!」
 凛は念を押すように断言する。
 そうか……と思いながら、和也は凛を改めて見る。彼女は髪を長くしているようで、髪をひとまとめにして後ろに結んでいる様子が見て取れる。彼女にとって、この髪型がお気に入り……なのかはわからない。まだ、今日出会ったばかりだからだ。