記憶の中の彼女

「急に、どうしたの?」
「あ、いや。その、なんて事は無いんですけど……気になって」
 我ながら下手な言い訳だ。けれど、もしかしたら原因を特定できるかもしれないという期待が和也を前に進ませる理由だった。
「……ここは、家庭科室だから隣の準備室に置いてあるものを使う予定になるかな」
 少し間を置いて、先生はどのストーブを使うのかを教えてくれた。
 勢いに乗り過ぎてしまったかもしれないが、和也はそれを聞いて真っ先に調べに行きたいと考えていた。
「わかりました。俺が持っていくのでちょっと待ってくださ」
「待ちなさい。まだ使うかどうか決まってないと話したでしょう」
 そうだった。
 今は、ストーブを使うかどうかという話をしているのだと凛は説明してくれた。それは、まだストーブを使う事は決定事項ではないという何よりの根拠となっている。
 けれど、この流れだとストーブを使う方向に傾きそうだ。使わない方向に行く可能性もあるけど、出来ればストーブを改めて確認していきたい。
「けど、流石に部屋の中冷えてきましたし……」
「とは言ってもねえ」
 部員の言葉に対して、先生は大分悩ましいという感情を露わにしていた。
 先生からすれば生徒の言い分はわからない事でもないのだろう。しかし、安易にストーブを使った結果ストーブに集まって作業が進まないとか、火傷するかもしれないとか素直に使わせるには躊躇う様な事が多いのだろう。
 ……実際、和也は自分の教室でストーブが使われる機会というのは中々無かったと記憶している。
 けれど、主張されている内容の通り流石に寒い。夜になるのが早くなってきたから日が差さなくなって猶更部屋が冷えてきている。先生が自分の主張を通せる様な人なら、多分ここでストーブを使いたい、と言う話ははっきりと却下されているだろう。
 話が平行線のままなのは、ストーブを使う事になるという可能性がまだ残っているとも取れる。
「先生がちゃんと大丈夫って思えるように使うので、ホントお願いします」
 和多利が先生に強く、そう主張した。部屋の中でも手袋を付けているというのは、相当寒がっているようだった。
「……い、入ちゃんの言う通りちゃんと迷惑にならない様にするので、ストーブ使いましょう!」
 凛が続けて言い出す。
 先生は、そうした言い分が続いて大分悩んでいた様だったが。
「……わかったわ。代わりに長時間稼働させずに時々電源を切る様にする事で対処しましょう」
 折れた。
 こうして、ストーブを使える事が確定したために手芸部の面々は「やった!」と喜びを挙げている様子だった。和也は、その様子を見て内心少しほっこりする気持ちがあった。しかし、この後起こる事を自分は知っている。
 もし、ストーブがその原因になる場合……。
 和也は改めて慎重に確認していこうと再確認した。

  *

 ストーブの使用許可が下りてすぐ、和也は自分が取りに行く事を伝えて準備室へ向かった。後ろから先生の声が聞こえるので先生はすぐにその後を付いてきた様子だった。
「さて、ストーブは……」
「今電気付けるから。でもここ物多いからちょっと気を付けてね」
 注意を受けながらも、和也はストーブを目で探す。
 当然ながらストーブのサイズは大きい。自分の腰ぐらいの高さがあるストーブはこの準備室の中だと比較的目立つ。例え、色で目立たなくともその大きさが存在感を際立たせていた。
「よし」
 ストーブに近づくと、和也はまずケーブル部分を確認してみた。
 ケーブルの状態に問題があるかどうかはぱっと見だとわからない。というか、和也は家電とかそういうのには詳しくないのでこれが問題あるかなんてわからない問題があった。
「先生、このストーブっていつの奴なんですか?」
「さあ……まだ、使えるとは思うけど」
 大分曖昧な返答がなされてしまった。
 なんとなく、このまま運んで大丈夫なのだろうかという不安が和也の中で渦巻いている。どうにかして確認ができないのだろうか……。


「どうしたの、高野くん?」
 後ろを振り向くと先生が心配そうな顔で立っていた。
 どうやら、その場から全然動かない和也を心配して声を掛けてきた様だった。それに気づいた和也は慌てながらも、大丈夫ですと答えてストーブを改めて調べる。
「えっと。このストーブを使うので、正解何ですよね?」
「ええ、そうね……何かあるのかしら?」
「あー……それは」
 先生から何か疑問を浮かべる様子があった。和也は、もしかしたら上手い事ここで話を進めたらそれとなくストーブが問題なく使える状態か調べてくれるかもしれない……という少し、淡い期待が生まれていた。
「……このストーブ、ちゃんと問題なく使えるかなあって」
「あぁ……確かに、そうかもしれないけれど……」