記憶の中の彼女

「それは簡単な話で、僕は将来君が凛と出会う事を予期していた。そして、その出会いをきっかけに仲を深めていく事も……」
 つまり、この少年が言っている事は和也があの日に凛と出会う事とそこから何だかんだと交流を深める事を事前に知っていた、と言っているのだ。いつ、そんな事を……知っていたのだろう。
 それに、あの出会いは偶然ではないと遠まわしにも言っている様に思えた。
「……君が、何故そんな事を僕が知っているのかという疑問は言わなくてもわかる。残念ながら、契約の都合で答えてはいけないんだ」
「そ、それは何で? 契約の都合って言うのは」
「先ほども話した通り、僕には凄まじい力もある。ここまでの出来事や説明でもなんとなくわかるだろうけど、時間を巻き戻す事も記憶を操作する事も……簡単に出来る訳だ。そうなると、何故行動に制限が生じるか察せられると思う」
 まさか、
「……君が、直接関与すると不味い事が起きると言う事?」
「そう。簡単に言えば、僕らの様な存在は人間を直接助けすぎるのは悪影響になるからルール、という形で行動に制限が生じられているんだ。まあ、本当に偉い神クラスならそれを捻じ曲げる事も容易だろうけど、残念ながら僕は神ではないんだけどね……」
「えっ」
 少年の言う事実には意外なものがあった。神ではない?
「それじゃあ、君は」
「う~ん。一番近いのは神の使い、とか神の子どもとか。見習いとも言うだろうね。ここまでの行動は君たちから見るところの神社の神さまに黙認してもらっている訳だけど……」
「つまり、直接関与しすぎたら」
「そう。黙認させてくれなくなる。僕が行っている事は契約の内容で出来る事だけを出来るだけやっている、と言う事だ」
 和也は、そこでやっと納得できたような気がする。
 目の前の少年は、和也の様な一般人とは明らかに違う。それこそ、神とかそれぐらいの力を持つ存在なのだと言う事に、だ。
 その目の前の少年は、理由はわからないけれど凛の身に起きる危機から回避させようとするのに躍起になっているという事だ……それも、彼女の身近となる人物。和也自身を誘導して。


「……確かに、ここまでの説明で伊豆野さんに危険な事が起きる事も、俺がそれを回避するために選ばれるのも……そして、き……あなたがこうして俺にそれを伝えるために色々してくれている事もわかった」
「うん……概ね理解できているならわかったよ」
「ただ、やっぱり一つ気になるのは。あなたが動き回る理由となった契約の相手だけど」
 そう。確かに、理由としては一応辻褄が合う事。実際、凛が危険な事に巻き込まれる事や少年にそれだけの力があるのは先ほどの火災から、時間が巻き戻されているという和也の置かれた状況からも理解はできる。
 けれど、一番釈然としないのは少年を動かす理由になっている契約……その契約した相手だ。もっと言えば、どうして契約する事になったのかという部分も。気になる点はキリもない。
「そうだね……先ほども話した通り、相手の事を直接伝えるのは契約の都合で出来ないんだ。けれど、ヒントなら出せる」
「ヒント?」
「……君は、ここまでで記憶が変わった事があるだろう」
「それって……」
 つまり、あの記憶……未だに覚えている事が不思議だったあの記憶に現れたあの女性。その女性がこの少年の契約相手? となると、彼も知っているのだろうか。
「じゃああのパンダ柄が特徴の封筒は一体?」
「……それは、詳細は伝えられないけれどいくつか出せる情報がある」
 そう少年が言うと、ゆっくりとその口を開く。
「まず、あの柄は彼女……凛に伝わる様にそういう柄を使っている様だ」
「……ど、どういう事?」
「僕はその柄を使う意図は知っているけど、それは契約の内容に反する。そして、これが大事だ。この危機を回避した後に早いタイミングで凛にその封筒を渡すんだ」
「……え?!」
 予想外の答えが返ってきた事に驚く。確かに記憶の中で彼女は、その時が来るまで大事に保管しておいてほしい……とは言っていたが、それが凛に渡す時だと言うのだろうか?
「君が、驚くのも無理はないと思う。けれど、その封筒は間違いなく凛に渡すようにしてほしい」
「わ、わかった……」
 凛に渡す。これ以外の話は全くわからない状態だった。ただ、どうもこの封筒を凛に渡す理由を知っている様な……。
「とりあえず、これで概ね君の気になる事は話せただろう。次に、あの日の悲劇を回避する方法についてだけど」
「……うん」
 そうだ。もしあのままにしておくとまたあの光景を見る事になる。それは凛の死……。それだけは回避しないといけない、と言う事は和也にも理解の出来る事だった。
「まず、火事の原因は漏電と報道される」
「漏電?」