記憶の中の彼女

「伝えたい事って?」
「実は、文化祭の前日は追い込みで結構遅くまで展示準備に取り掛かるかもしれないって話で」
「それって……」
 凛から伝えられた……所謂追い込み作業、というのはわからなくもない。やっと展示に関する事が進んだばかりだが、肝心の文化祭の開催から一カ月を切ってから進んだのだ。恐らく、通常のスケジュールでは間に合わないという事だろう。
「顧問の先生も見てくれるから、安全面とかも大丈夫だし皆親からその日は少し遅くなるって伝える様にしておいているけど……」
「そっか。それなら、まあ大丈夫なのかな」
 それを和也に話す理由とは、何だろうか。
「だからその日に高野くんが手伝いに参加するならこの事を事前に伝えておいた方が良いなって」
「ああ……なるほど」
 現状、かなり積極的に手伝いとして関与している以上この事を伝えるのはわからなくもない。事前にその事を話しておけば、どういった形で手伝いに参加しておけばいいのかが把握もできるから、大分ありがたい。
「まあ、少し考えてみるよ」
「ありがとう。でも、出来るならゆっくり休んでいて欲しいけどね」
 凛は、少し心配そうな様子でこちらを見ていた。
 確かに、龍との勉強会が終わって暇が増えたために手伝いとして関わる事も多くなってきた。けれど、部員ではない状態なのも確かだからその追い込み作業の日は出来れば休んでほしいのも本心なのだろう。
「……わかった。それなら、その日は来ないって方向が良いのかな」
「そう。それが、やっぱり良いと思うかな」
 だから、和也はその日は真っすぐ帰る事を考えた。

 放課後、和也は真っ先に学校を出る。無事に赤点回避を出来た以上、中間テストが終わったから今は放課後に予定がない事が幸いだと今日は良かった、と安堵していた。
 今朝も走った道を今朝とは逆の方向で走る。
 今朝。登校の時間が近づいたために、見つけたところで終わったあのパンダ柄封筒の出どころ。どうしても、確かめたい事があった和也は今、こうして走っていた。

「おかえりー」
「ただいま!」
 家に着いた和也は、手を洗って普段着に着替えてから自分の部屋に戻る。誰も入った痕跡が無いのか、部屋は朝の状態のまま放置されている状態だった。けれど、それは同時に朝の続きを何事も無く進められる証だった。
 和也は押し入れで見つけたパンダ柄の封筒がある事を確認する。パンダ柄であるのは、多分何かしらの理由があるのだろうか。そんな疑問もある。
 けれど、まずはこのパンダ柄の封筒を見つけた所でどうしたら良いのか?
 和也はそこで少し悩むが、そこでピンが刺さる様に感づいた事がある。今、ここであの公園に行ってみてはどうだろうか。そう思い立ったら、和也は迷わずに家を出る準備をする。家からあの公園はそれなりに遠いから、変に親から心配を受けさせない様に早めに着いて早めに帰る様にしたかった。
 そこからは母から急に外を出る事で「どうしたの?」と言われたりもしたが、とりあえず適当になんとなく外に出たかったから、と誤魔化して家を出て行った。
 とりあえず、手元にあるスマートフォンで地図アプリを開く。この前、凛と潟ケ谷神社に行った際にあの公園が神社の近くにある事に気づいた事から、和也はまず潟ケ谷神社と検索して神社周辺のマップを表示させる。しばらく経ったら検索場所と、その周辺のマップが表示される。とりあえず、神社からの移動方法を確認してみる。まず、この場所に行くには幸いにも一時間は掛からない様な距離の様だった。
 ただ、実際に歩いたら思ったより時間はかかるかもしれないが。とにかく、和也は駆け足で公園へ向かっていく。

 そんな形で、とりあえず公園にもうすぐ着きそうな所まで近づいてきた。神社のある小山も見えるぐらいだったから、間違いないだろう。
 ただ、直感だけでここまで来てしまったものの、公園に行った所で何があるというのか。和也はここにきて、かなり冷静になっている。一時の興奮が収まってしまった様にも感じられる。
 けれど、なんとなくの感でここまで来てしまった以上戻れなかったのも確かだった。公園の外壁が少しずつ見えてくるのを、和也は歩きながらまるで、他人事の様にその光景を眺めていた。

 公園に辿り着いた和也は、相変わらずの代わり映えのない光景だった。と思う。しかし、けれどその印象は一瞬で払拭される。
 時間帯は夕方頃。秋という季節故に少し暗くなっているがまだ、子どもが遊んでいてもおかしくはない。実際前に凛とこの公園に来た時は子どもが遊んでいる様子。そして、親らしき人物がそれを眺めて談笑している場面を和也は見ている。
 けれど、今日は人影が一つも見えなかった。少し不気味さを感じつつも、和也は公園の中に入っていく。