けれど、和也はそれ以上に彼女の言う『有名な所』という部分に着目する。市で有名な所というと、この神社は潟ケ谷に住んでいる人なら大体は知っている潟ケ谷神社という事になる……。
「もしかしてここが潟ケ谷神社?」
「そ、そうそう! でも、もしかしてって高野くんは来た事ないの?」
「そうな……」
 そう言いかけた所で、少し引っ掛かりが生まれる。何となく、ここに来たような事がある気がしたような……そんな気がしたのだが。
「……高野くん?」
「あ……いや、別になんでもないよ。それで、ここに来たのって」
 凛に心配をかけないように話題を変える。
「そうそう。ここに来たのは、文化祭で手芸部の展示が成功する様にって祈願しに来たの!」
「え、この神社ってそういうのも大丈夫なのか?」
「うん! この神社ってまさに、その人にとって大事な事が上手くいくようにっていう願いが元になっているって話だし、大丈夫!」
 少し曖昧な気もするが……確かに、祈願をしに行きたいとなるなら神社へ向かうのは納得な、訳だ。そこで和也には一つの疑問が生まれる。
「それって、一緒に行くの俺で良かったのか? ほら、和多利さんとか……」
「確かに、部活のメンバーの子で行きたかったとは思うんだけど……ほら、この間の作品の進捗状況を話したでしょ? それで皆手を開ける事ができなくて……」
「あっ……」
 和也が手伝いをしている大きな理由となっていた作品の制作状況が芳しくない、という話。それで、凛は和也を誘って祈願をしにいこうってなったのだろうか。
「まあね、そういう事だから高野くん呼んできたわけなの! それじゃ行こ!」
 そう言って、凛は神社の方へと歩いていく。鳥居……の前で一度礼をした後に、端を歩いていく様子が見えた。もしかすると、今彼女がやった事は参拝におけるマナーだったりするのだろうか……?
 少し、不安を覚えたが和也はとりあえず神社へと歩いていく事にした。


 凛の後に続いて神社の敷地内に入っていった。
 敷地内は、非常に静かで人影は殆どないと言ってもいい。恐らく、今敷地内に自分たち以外でいるのは殆どが神社で働いている人だろう。少なくとも、参拝しにきたという感じではない。
「この時期の神社って大分静かだな……」
「まあ、ここに関して言えば、年末年始以外は結構静かかも」
 凛は、和也の言っている事に同意をしながら敷地内にある賽銭箱に向かっていった。これから、お願いをするという感じだ。これは……行った方がいいな。
 和也も凛に続いて賽銭箱の方へと歩いて行った。

 凛によると、祈願できる場所はこの賽銭箱の所だけの様だ。とりあえず、懐にあった十円玉を賽銭箱の中に入れて、そのまま願いを頭の中に込める。
『文化祭が、上手くいきますように』
 多分、凛も同じことを願っているだろう。
 しばらく、お互いが何も言わず静かな時間が流れる。
「……よし! これで祈願が出来たと思う」
 凛が、そう言い出した事に合わせて和也は「次はどうするのか」と聞き出す。彼女は、それに対して少し悩む素振りを見せた後。
「とりあえず、神社の中を少しだけ歩いてみないかな?」
 そう提案してきた。
 和也はそれで、今神社の敷地内を歩いている。すぐに終わる事だと思うので、そんな歩く事はない。
 敷地内は木々に囲まれており、出入り口の所とはずいぶんと雰囲気が異なる。都市部の中にある、森林の中に神社は位置しているのか。
「あ……」
 木々の隙間から街並みが少し見える。すると、和也には少し見覚えのあるようなものが見えた。公園だ。
 なんとなく、あの公園はこの間行った公園と似ている気がしていた。あの、不思議な少年と出会った……。そこで、和也はいつの間にか目の前に人影が現れた事に気が付いた。

「また会ったね」
 目の前に現れた少年は、そう言った。
 唖然としている和也に対して、その少年は平然としている様子だった。和也はハッとして周囲を見渡す。凛も、誰もいなかった。
「……えっと」
 和也はとりあえず、何から言い出せばいいのかわからなかった。どういう事を言えばいいんだろう。この間、公園で会った時から言いたい事は色々とあったのだ。去り際に言った言葉の意味、話しかけてきた理由、そして一体いつからそこに居たのか?
 とにかく、言いたい事だけはたくさんある。けれど、和也はどれから言い出せばいいのかわからなかった。
「次に会う時は十月になると思う」
 和也が何も言い出せない内にその少年はそんな事を言い出してきた。十月?
「あの、それって」
「もしかしたら、一度その時にならないとわからないかもしれない。彼女が危険な事に遭わない様にできるのは、君だけだ」