ある日、放課後に一緒に来て欲しいと言われて和也は龍とのいつもの恒例である勉強会を終わらせてから、家庭科室へと向かっていた。今日は少し早く勉強会を終わらせてしまったが、龍の成績は間違いなく良くなっているので、多少短い日があっても大きな影響はない、と和也は考えていた。
 凛とはあれからの何度かのやり取りで龍の赤点回避のために放課後は勉強を見ている事を話しているので、少し遅くなった理由は流石にわかってくれる、という安心感もある。

「どうも、渡多利(わたり)さん」
「お、高野先輩来ましたね。ぶちょ~! 高野先輩来ましたよ~」
 家庭科室に入ると、和多利が真っ先に凛に呼びかけていた。彼女は手芸部に所属している凛の後輩であり、和也視点から見ると凛の次に積極的に自分に話しかけてくれる後輩だ。正直彼女のお陰ですんなりと出来上がった部活動メンバーの輪の中に入れている部分はある。
「あぁ、ありがと(いる)ちゃん」
「もぉこれくらい朝飯前ですよ! こんな良い男子とここまで仲良いならいっそ部活誘っちゃえばいいのにぃ~」
 和多利の言い分に凛は「あ、あはは……考えとくね……」と、少し苦笑いを見せながら対応している。和多利は随分と人懐っこい人柄なので、先輩相手にも臆せずにそういうプライベートの深い部分に話題を出せる。
「ごめんね、入ちゃんが変な事言って。確かにここまで来たらいっその事入部してもらっても良いんだけど」
「いやいや、大丈夫だよ。入部の方は……時期的に怪しいけど」
 二年の二学期に入部、となるとすぐに卒業となってしまうため入ってもそんな活動はできないだろう。
 ちなみに和也は、部活動は一年の時だけ一時期所属していた部活がある……が、そんな事は今、大事ではないだろう。
「そういえば、今日はこの後どうするんだ?」
 本題に入る。
 凛から今日の放課後についての話を振られた時、彼女は『部活の事ではないんだ』と、話していた。つまり、今日彼女が放課後に和也を呼んだのは部活の相談で呼んだ訳ではない、と言う事だ。
「うん、高野くんと一緒に来て欲しいところがあって」
「おっと? ぶちょ~、結構大胆じゃないですか? デートのために部室呼ぶなんて」
 和多利が、聞き逃さないと言わんばかりにその事を突っ込む。
「ちょっと! 入ちゃん、そういうのじゃないから!」
「ほぉん……?」
 少し、反応が意味深で少しえくぼが出来上がってはあるが和多利はそれ以上の追及は無かった。もしかして、これは少しからかわれている……?
「もう……高野くん、ごめんね?」
「あ、ああいや……。別に大丈夫だから」
 けれど、彼女……和多利が言っていた『デート』という言葉。
 確かに男女二人でどこかへ行くのは、デートとして成立するかもしれない。和也はそう、意識したら少し心臓がバクバクと音を鳴らしているのを感じた。


「もう、入ちゃん悪気はないんだけど……困っちゃうよね」
 困り顔で、凛は話す。学校を出て、和也は凛に連れられる様に街中を歩いて行った。
「いや、俺は別に……って感じだけど。和多利さんに助けられている所はあるし」
「高野くんからみたら、そうかも」
 学校を出る直前の和多利とのやり取りを、凛は気にしている様子でその上少し顔は真っ赤な様子だった。風邪なのか? と和也が聞くと「さっきのからかわれて恥ずかしかっただけ!」と否定された。
 恥ずかしい……そういえば。
『デートのために部室に呼ぶなんて』
 凄くニヤリとした顔で、和多利がそんな事を言っていた様子がハッキリとフラッシュバックしてきて、和也もなんだか恥ずかしくなった様な、そんな気持ちになっていた。

 そんな会話をしながら、和也と凛は二人で街中を歩いていた。凛に一緒に来て欲しい場所がある、と言われて一緒に来ているだけではあるが……確かに男女二人で来ているが、明らかにカップルという関係の空気ではない様にも見える。
 どちらかといえば、用事でたまたま一緒に行動している、という感じに見えるかもしれない。実際に、そうなのだけど。
 そういう風に和也は先ほどの会話に引っ張られるように考えている中、凛が伝える。
「着いたよ」
 つまり、目的地に着いたという事だ。和也は周囲を見渡して見ると。
「……神社?」
 和也が見えたものは鳥居……と思われる建造物の奥に階段があり、その階段の先には明らかに何かの建物がある。和也はこういう場所に詳しくないので、入り口前の建造物が鳥居かどうか、確信する自信は無かったのだが、凛が一緒に来て欲しいと言っていた場所は神社……なのだろう。
「この神社って市でも特に有名な所で。私もたまに……来ているんだ」
「そう、なんだ……」
 たまに、の後に少し間が空いた事は気になる。