既に呼び捨てで接している所が龍の良い所でも、悪い所でもあるなと感じる。当初はちゃん付けしようとして、凛に「それはちょっと……」と断られたのを見ると、彼女の気持ちを反映させて呼んでいるのは、彼が完全に無神経っていう訳ではないだろう。
「和也の事はどう思ってんだ? こいつ、こいつ」
あまりにも唐突に出た自分の話題に、和也はドクン、と胸がつっかえる感覚が生まれる。
……龍、何でそんな事を? と和也は怪訝な面持ちで龍の表情を伺う。……そこそこ経って、凛が何の返答もしていない事に気づく。
和也は凛の方を向く。
彼女の顔は、少し赤らめている様子だった。
「え、えっと……それは、この場だとちょっと言いにくいというか……」
「ふむふむ……」
「龍、ちょっと待て。これやるから黙ってくれ」
流石に見ているだけではいられなくて和也は早急に動いて、なんとかその話から離れる様にした。一瞬変な空気にはなったが、なんとか戻ってくれて良かったと和也は思う。
「今日はありがとう。もうすぐ次の授業だし、私は戻るね」
「おう! じゃあまたな~!」
そういうやり取りを経て、凛は自分の教室に戻っていった。途中変な空気になったとはいえ、何事もなく終わって良かった。……それにしても、本当にこれでどうにかなったのだろうか?
「……和也」
龍から低い声が漏れ出る。もしかしたら、完全に不味い方向にいってしまったかもしれない。
「な、なんだよ」
「……お前、彼女の事を幸せにしろよな!!」
「……は?」
右肩に龍の手が置かれる。そして、龍は泣いていた。鼻水も結構出しながら、顔をぐにゃぐにゃに歪ませて、泣いていた。
「あんな良い子とそういう関係なんだから、お前はあの子の事を泣かせるなよぉ……ホントにぃ……!」
「え……は……?」
何だか、状況が読み込めなかったが。その後しばらく経っても、龍は凛との話について何かぶり返す、みたいな事が起きなかったので、この事は多分不問になったのだと考える。
……どうやら、凛の提案とその実行によって本当にどうにかなったのは確かみたいだ。
*
……とりあえず、龍とのややこしい問題は解決したのだろうと和也は考えた。その後、凛が時々和也の教室に来ることはあるのだが、その時、龍は何も言ってこなくなった。
友人に聞くと、「これは公認するしかない関係だからね」と答えてくる。和也には、一体どういうものかわからないのだが、それ以上の解答は何も無かった。
この龍の変化の間で大きな変化があった事と言えば、一つある。あれから一度、家庭科室で会話していた時だった。
「そういえば、文化祭の準備って事は多分、出し物とか出すんだろうけど進んでるのか?」
和也が凛にそういう質問をしたわけだが。
「あー……実はね、皆結構題材とか悩んでいて進んでないみたいなの」
「えっ。進んでないって言っても」
文化祭は十月末。凛はかなり深刻な面持ちなのも、納得だった。九月初めではあるものの、題材が決まってないレベルとなると、下手したら時期的に間に合わないかもしれない。
「そう、結構ピンチっていう事なの。昼休みもこうして私一人で準備していたのは最低限の展示になるようにって形で私が一人で作品を作ってるの」
「なるほどな……」
と、なると。和也には少し気になる部分があった。
「もしかして伊豆野さんって部長とか、そういう立場になるのかな」
「うん。そうなんだ、私が部長なの」
やはりそうだ。二年生で、既に部長という立場と言う事は結構大変だろう。
「そっか……それなら、時々助けて欲しいって事があったら是非言って欲しい」
「えっ? 迷惑じゃない?」
「もちろん、自分に出来る事じゃないと難しいけど。でも、こうして話を聞いてると」
手助けはしたくなるような状況だった。一応、龍との勉強会とかもあるから結構大変ではあるが……自分より凛の方が明らかに大変な状況であると、和也は考えた。
「そっか……う~ん」
凛は、少し悩むそぶりを見せるとこれだ、と言わんばかりに目をハキハキと光らせて。
「それなら、時々で良いから私の作品とかについて意見とか聞かせてほしいかな」
そう、告げた。
こうして、たまに時間が空いた時に展示物についての意見を伝える事になった。凛によると「部活のメンバー視点より、高野くんの方が見てもらう人視点になってくれるかも」という事かららしい。
そう言われても、自信はないのだが自分から言い出した訳なので和也は精一杯出来る範囲で、こうしてみると良いかも、こうしたら良くなりそう。そういった意見交換を時々するようになっていた。
「和也の事はどう思ってんだ? こいつ、こいつ」
あまりにも唐突に出た自分の話題に、和也はドクン、と胸がつっかえる感覚が生まれる。
……龍、何でそんな事を? と和也は怪訝な面持ちで龍の表情を伺う。……そこそこ経って、凛が何の返答もしていない事に気づく。
和也は凛の方を向く。
彼女の顔は、少し赤らめている様子だった。
「え、えっと……それは、この場だとちょっと言いにくいというか……」
「ふむふむ……」
「龍、ちょっと待て。これやるから黙ってくれ」
流石に見ているだけではいられなくて和也は早急に動いて、なんとかその話から離れる様にした。一瞬変な空気にはなったが、なんとか戻ってくれて良かったと和也は思う。
「今日はありがとう。もうすぐ次の授業だし、私は戻るね」
「おう! じゃあまたな~!」
そういうやり取りを経て、凛は自分の教室に戻っていった。途中変な空気になったとはいえ、何事もなく終わって良かった。……それにしても、本当にこれでどうにかなったのだろうか?
「……和也」
龍から低い声が漏れ出る。もしかしたら、完全に不味い方向にいってしまったかもしれない。
「な、なんだよ」
「……お前、彼女の事を幸せにしろよな!!」
「……は?」
右肩に龍の手が置かれる。そして、龍は泣いていた。鼻水も結構出しながら、顔をぐにゃぐにゃに歪ませて、泣いていた。
「あんな良い子とそういう関係なんだから、お前はあの子の事を泣かせるなよぉ……ホントにぃ……!」
「え……は……?」
何だか、状況が読み込めなかったが。その後しばらく経っても、龍は凛との話について何かぶり返す、みたいな事が起きなかったので、この事は多分不問になったのだと考える。
……どうやら、凛の提案とその実行によって本当にどうにかなったのは確かみたいだ。
*
……とりあえず、龍とのややこしい問題は解決したのだろうと和也は考えた。その後、凛が時々和也の教室に来ることはあるのだが、その時、龍は何も言ってこなくなった。
友人に聞くと、「これは公認するしかない関係だからね」と答えてくる。和也には、一体どういうものかわからないのだが、それ以上の解答は何も無かった。
この龍の変化の間で大きな変化があった事と言えば、一つある。あれから一度、家庭科室で会話していた時だった。
「そういえば、文化祭の準備って事は多分、出し物とか出すんだろうけど進んでるのか?」
和也が凛にそういう質問をしたわけだが。
「あー……実はね、皆結構題材とか悩んでいて進んでないみたいなの」
「えっ。進んでないって言っても」
文化祭は十月末。凛はかなり深刻な面持ちなのも、納得だった。九月初めではあるものの、題材が決まってないレベルとなると、下手したら時期的に間に合わないかもしれない。
「そう、結構ピンチっていう事なの。昼休みもこうして私一人で準備していたのは最低限の展示になるようにって形で私が一人で作品を作ってるの」
「なるほどな……」
と、なると。和也には少し気になる部分があった。
「もしかして伊豆野さんって部長とか、そういう立場になるのかな」
「うん。そうなんだ、私が部長なの」
やはりそうだ。二年生で、既に部長という立場と言う事は結構大変だろう。
「そっか……それなら、時々助けて欲しいって事があったら是非言って欲しい」
「えっ? 迷惑じゃない?」
「もちろん、自分に出来る事じゃないと難しいけど。でも、こうして話を聞いてると」
手助けはしたくなるような状況だった。一応、龍との勉強会とかもあるから結構大変ではあるが……自分より凛の方が明らかに大変な状況であると、和也は考えた。
「そっか……う~ん」
凛は、少し悩むそぶりを見せるとこれだ、と言わんばかりに目をハキハキと光らせて。
「それなら、時々で良いから私の作品とかについて意見とか聞かせてほしいかな」
そう、告げた。
こうして、たまに時間が空いた時に展示物についての意見を伝える事になった。凛によると「部活のメンバー視点より、高野くんの方が見てもらう人視点になってくれるかも」という事かららしい。
そう言われても、自信はないのだが自分から言い出した訳なので和也は精一杯出来る範囲で、こうしてみると良いかも、こうしたら良くなりそう。そういった意見交換を時々するようになっていた。



