あれから一週間、もやもやが治まらない。
 別れ話は一方的なのに、なぜか納得してる自分がいる。
 納得はしても、スッキリしないんだよな、これが。
 
 『外見(見てくれ)と学歴だけのオトコ』
 
 多分彼女は正しかったんだ。
 僕は彼女を好きだったとしても、愛してなどなかったんだから。
 
 次は自分に夢中になってくれる良い子を見つけるのかなぁ。
 それとも彼女にも好きな人がいたのかな。
 
 それより、問題はあいつだ。
 あの日依頼あいつの顔が頭から離れない、ずっと高校生のまま年を取らないんだ。 
 今年4年生だよな。受験前に文転したって聞いた時は驚いたが、上手くやってるのかな。
 就職大丈夫かな。
 
 うわっ、やばい。大学生になった姿が想像できない。
 僕、何してるんだろうホント。

 指定席化した社員食堂の隅っこで、ボーっとしてたら先輩に顔を覗き込まれた。
「どうした。失恋でもしたのか」
 驚いて瞬きしたら、涙がぼろぼろとこぼれてくる。
 何で今涙が出るんだよっ。
 慌てて拭い、顔洗ってきますと断って手洗いに駆け込んだ。
 
 さっぱりして席に戻ったら、先輩がワクワク顔で待っていた。 
「なんだ、元気無いなぁ。俺でよけりゃ何時でも話聞いてやるぞ」
 そんなニコニコ顔で誘われたって、元気なんか出ませんよ。
 
「仕事も一段落ついたことだし、今日は飲みに行くか?」
 そう言うと先輩は昼飯の親子丼を食べ始めた。
 僕が手を付けずにいた昼定食を箸で指して「食べろ」というように促す。
「いただきます……」
 先輩と一緒にお昼を頂いた。
 
 先輩は院の研究室から紹介された研修(インターン)先である企業の海外プロジェクト推進研究室の主任で、僕の指導員にあたる。このまま就職までつながったらなと淡い期待を込め、僕は自分の研究テーマに日々励んでいるのだ。
 なにせバブル崩壊以降の就職氷河期真っ只中、このインターン枠はマジで来年への命綱だ。
 
 研究室にここのインターン募集をかけたのは平川先輩で、僕を推薦してくれた准教授は先輩が在籍していた当時は講師だったという。 
 准教授と先輩のためにも、来年の就活に繋げないと。
 その先生に言わせると、先輩は人を集めたり動かしたりすることに非常に長けているという。学部間交流など活発に顔を出すからか認知度は抜群で、特に女性には大変オモテになっていたとか。
 
 ギリ二十代に見えなくもないこの先輩は名前を平川亮(ひらかわとおる)といい、通産省出の元技官だというから驚きだ。
 そして僕と同じ大学の研究室に所属していた、大先輩でもある。
 
 元キャリア官僚なのに全く気取らず、気さくすぎて正直チャラいくらいの人だが、この軽いノリの先輩に色々ぶっちゃけたら少しはスッキリするかなぁ。
 同門と言うことで特に目をかけてくれ、それには感謝しかないんだけど。