転校生が来るという先生の言葉に教室が騒がしくなる。
ドアが開けられた後ゆっくりとした動作で入って来る転校生。彼女を見た瞬間、私は目を見開いたまま瞬きを忘れてしまった。窓から吹く風で彼女の肩までかかっている髪がサラサラと揺れる。その様子に見惚れていると彼女は窓際の席に座った。その様子を見て自己紹介が終わったことに気がつく。しまったと思い黒板に目をやると、渡辺陽晴とかいてあった。窓際に座る彼女を見ると陽晴という名の通り、青空がよく映えていた。穢れを知らないような美しく澄んだ瞳に吸い込まれる様に思えた。ほぅと思わず息を吐く。先生の長い話もいつの間にか終わり、クラスの皆が彼女の席に集まった。私もその集団に紛れて近くで彼女を見る。
「どこから来たの?」「このグループ知ってる?」「この本読んだことある?」「連絡先交換しよ!!」「なんて呼んだらいい?」
皆が色々な事を次々と言っていく。彼女は困った様に笑って一つ一つ丁寧に答えていく。ゆったりとした仕草がかわいらしくて彼女の事をもっと知りたいと思ってしまう。皆の質問も落ち着いて、皆一言二言彼女に言った後授業の準備をしたり、いつものグループ同士で話したりするため散らばって行く。
「陽晴ちゃん、よろしくね。」
私も当たり障りの無い言葉をかける。すぐ離れるのは、なんだかもったいない気がして
「もし暇だったら、放課後一緒に学校周ろうよ」
出来るだけ精一杯の笑顔を作る。私の言葉を聞いて、陽晴ちゃんは、小さく頷いて微笑んだ。私達の間を風が通り抜ける。何にもない日に一輪の花が目の前で咲いた。
恋に落ちた音がした。