「時間ないから朝ごはんいらない!」
 なにも変わらない普通の朝。いつもと違うのは起きるのが少し遅かったぐらい。私、大瀧舞は絶賛遅刻中のよくいる高校生。最近は異常気象だとか言われていて、まだ5月なのに遠くの地面がゆらゆらしている。どうせ遅れているし、どんだけ遅れてももう変わらへんかあと、謎の余裕が出てきた。

でもやっぱり教室に入る瞬間だけは緊張する。

ガラガラガラ

クラス中の視線が私に集まる。
「大瀧ぃ、遅刻か。GWボケが治ってへんな。」

 いかにも関西人らしい先生の小言。

「すみません。寝坊しました。」
そそくさと自分の席に急ぐと、茶々を入れてくる奴がいる。
「重役出勤お疲れさんですぅ。舞さん」
こいつはタケル。家が近所の幼馴染。

「うるさい。あんたもよう遅れてるやん」

「俺は寝坊ちゃう。お腹痛かったりすんねん」

「言い訳するやつはみんなそうやって言う」

 こんな感じで、こいつとはなんでも喋れる親友みたいな関係。それ以上でもそれ以下でもない。

 タケルはとにかく元気が取り柄、なんにでも顔を突っ込むし、その分誰かとよく揉めている。良くも悪くもパワフル。それに尽きる。

 そんな私たちの出会いは幼稚園。まだ性別なんて関係ない生意気なガキだった。だけどこいつとは死ぬまで一緒にいる。なぜかそんな気がずっとしていた。

 「あー疲れた、今日もやっと学校終わったあ。タケル、帰ろー」

 「悪い。今日予定あってさ、一緒に帰れやんのよ。」

 「えーそうなん?こんな可愛い子と帰れるの当たり前ちゃうねんで?」

 「自分で言うもんちゃうやろ。明日は帰ろうな、また明日。」

 「うん、また明日〜」

 そんな日々、毎日同じ。
 淡々と授業をこなして、友達とくだらない話をして、また明日を迎える。
 そう、毎日繰り返し。欠伸が出るほどに。


 この日がタケルと会った最後の日だった。