「……そこまでだ」

 いきなり扉の方から声が聞こえてきたので、ローレンス侯爵は慌てて目の前に居た私を後ろから羽交い締めにした。

「クロード……」

 その時の私の声は、震えていたと思う。けれど、クロードが居れば、なんとかなるだろうと思った。

 こんなにも緊張感溢れる場面だというのにクロードは普段と変わらない様子で、なんなら剣さえも抜いていない。

 何の危険もない日常と変わらないとでも言いたげに。

「お前……ああ。この前に執事見習いで雇った男か! どうして、ここに居る。もしかして、シュゼットと結婚するというのは、そういう……」

 私の背後にがっちりとしがみついたローレンス侯爵は、この状況が信じられないと言わんばかりだ。

「ああ。そういうこと。言っておくけど、あんたが頼りにしている怪しげな男たちなら、さっき俺が全部戦闘不能にした。今頃、医者にでも運ばれている頃じゃない」

「……この女が、どうなっても良いのか」

 私の首には何か、金属製のものが置かれた。

 ……何? 刃物? 私の背中に冷たいものが走った。

「知らないことは公平な勝負ではないから、先に言っておくけど……俺はこの前に世界を救った勇者で、数秒かからずにシュゼットを取り戻すことが出来る」

「何を! 勇者がこんな場所に居る訳がない。リベルカ王国でお姫様とでもよろしくやっているだろう」

「人の言葉を信じないって、なんだか酷いね。密輸に手を染める悪党なだけあるよ。あんたの言葉を、シュゼットは、ずっと信じていたというのに……どうする? シュゼット」

「助けて。クロード」

 すかさず私は、彼に今すぐして欲しいことを伝えた。

 なぜだか、クロードはこの状況を楽しんでいるように思える。それほど余裕のある状況なのかもしれないけど。