“ツンツン”
 隣の席の楓が横からシャーペンで突いてきた。
 僕は頬杖をつくのを止めて楓の方に顔を向ける。
「課題大丈夫なの?確か数学の課題も出してなかったよね?」
 楓は、少し心配そうな表情を浮かべながら尋ねてきた。
「それもあったかあ~忘れてた」
 数学も英語と同様に再提出を求められているが、鞄に入れたままで1頁もやっていない。
「ちゃんとやりなよ。透、地頭は良いんだから勿体無いよ」
「お褒めに預かり光栄です」
「褒めたんじゃありません~」
 楓とは幼馴染ということもあり元々仲は良かったが、最近は席が隣になったことでこうやって軽口を叩き会うことがさらに増えた。中学の時はそんな関係をよく揶揄われ疎遠になっていた時期もあり、高校になって再び今のような関係に戻ることが出来た。
「部活にはもう顔を出さないの?」
 楓が遠慮がちに聞いてきた。
「、、、、」
 僕は楓の顔を見つめたまま黙り込む。
「ほら今週大会みたいだし、それに、、」
「部活の話はしないでって前に言ったよね」
 僕は楓の言葉を遮るように答える。
 部活の話はもう聞きたくないし、思い出したくない。
「ごめん、、、」
 悲しそうな顔をする楓を見てはっと我に返るがそのまま何も言わずに前に向き直った。
 楓を悲しませたい訳では無い。
 でも、まだ笑って話す余裕は僕にはなかった。