「それじゃあみんな、始めるわよ!」
 列の中央に立つ西条が、声を張り上げた。現在、俺の目の前には四組の生徒たちが二列で並んでいる。彼らの足元には長縄が横たわっていた。ついに練習を始めるのだ。
 「久保くん。縄、お願い」
 西条が列から顔を出した。結局、他に立候補者がいなかったので俺と笹原が回し役になった。俺はコクリと頷き、奥に立つ笹原と目を合わせる。縄の持ち手に力を込めて、ゆっくりと地面から浮かせた。
 「せーのっ……」
 控えめな掛け声と共に縄を回す。みんなが一斉にジャンプした。同じ速さで二周目に入ると、縄が踏まれる感触がした。砂埃が舞い、「あ~」と落胆の声が上がる。
 「ごめーん、私が引っ掛かっちゃった」
 てへ、と一人の女子が舌を出す。それに対して「おい戦犯~」「あはは、どんまーい」と声が掛かる。
 「初回だから慣れてないだけよ。次、いきましょう」
 西条の催促を受け、俺は再び回し始めた。
 「いち……にい……さんっ!」
 三度目で縄が止まった。またしても緊張が途切れる。西条は間髪入れずに次を促した。
 「いち……にい……さん……よんっ!」
 今度は四回続いた。回数は伸びてはいるものの、少し頼りない。俺はヒヨコのよちよち歩きを見ているような感覚に駆られながら、五回目を回した。
 「いち……にいっ!」
 二度目で引っ掛かる。ここに来て振り出しに戻った。
 「引っ掛かったの誰だよ」
 「あたしもう疲れた~」
 短い集中が切れて、何人かの生徒が列を離脱する。西条はまだトライしたがっていたが、みんなの様子を見て諦めるように息を吐いた。
 「久保くん。あなたから見て、どんな感じ?」
 西条が話しかけてきた。多分回し手からの客観的な意見が欲しいんだろう。俺はぶっきらぼうに答えた。
 「ジャンプのリズムがばらけてる。みんなまだ自分の感覚に頼り切ってるな」
 こと大繩においては、個人じゃなく集団で感覚を共有しないといけない。自分一人の目で判断するよりも、周りの息遣いを聞くようにして跳ぶのが理想だ。
 「そうね……他に何かある?」
 「多分だけど、一回目以外は同じところで引っ掛かってる」
 「それは、同じ人が失敗してるってこと?」
 「多分な」
 俺が肩を竦めると、西条はジッと静かにクラスを見渡した。その表情は驚くほど真剣で、彼女の腹の内を探っていた自分が恥ずかしく思えてきた。まさかコイツ、本気で……いや、流石にそれはないだろ。
 「うーん。誰が引っ掛かってるか、特定したいわね」
 西条が顎に手を当てた。俺はハッと現実に戻る。
 「……だったら、次に回す時、見といてやる」
 「ほんとに?じゃあ、お願いするわね」
 西条がパッと笑顔になった。しまった……なぜか自分から協力を申し出てしまった……
 「休憩おわりっ!みんな、再開するわよ!」
 西条がみんなに声を掛けた。「え~、早くない?」と文句が上がるが、西条は強引に生徒たちを並ばせた。俺は自分の感情と行動の不一致にモヤモヤしつつ、それでも強く縄を握り締めた。