「いやぁー。西条さんと上垣、今日もバチバチだったねぇー」
放課後。日直の仕事として教室のカーテンを締めていると、背中から呑気な声がした。振り向くと、笹原が机上に尻を降ろして、ぽちぽちとスマホを構っていた。
「アイツらが揉めるのなんて、いつものことだろ」
素っ気なく呟く。西条と上垣はまさに犬猿の仲だ。何か行事があるたびに衝突し合っている。
「西条さん、女子なのにすげえ度胸だよな。俺、上垣とか怖くて近づけないもん」
笹原が大袈裟に身震いする。確かに上垣のオーラは威圧的だ。迂闊に関わろうとは思わない。だが、個人的に上垣のことは嫌いじゃない。アイツは西条に反発する時、暴論や我儘ではなく、あくまで正論で対抗するのだ。今日だって言い方こそキツかったが、空気を読まずに綺麗事ばかり謳う西条より、遥かにマシだった。
「……笹原はさ、西条と上垣、どっちが信頼できる?」
「え?どしたの突然?」
笹原がスマホから顔を上げる。正気を疑うような目で見られた。
「べ、別に深い意味じゃない。お前だったら、どっちについていくかって話だよ」
俺は誤魔化すようにシャッ!と最後のカーテンを締めた。光が断ち切られ、教室の薄暗さが一気に増す。
「そりゃあーもちろん、二年連続カワイ子ちゃんランキング一位の西条さんだろ!」
「…………お前に聞いた俺がバカだった」
「⁉ちょっ、流石に酷くない⁉」
笹原が机から滑り落ちる。俺は冷ややかな視線を送ってから、足早に教室を後にした。
「待てって!さっきのは一部冗談だよ!」
背後からドタドタと足音が追いかけてきた。俺は鬱陶しさを我慢して振り返る。
「なんか、流石に呆れたわ」
俺は軽蔑するように言った。ただし、自分自身に対して。
……まさか西条への不信感を、一瞬でも他人の口から聞きたいと思ってしまうとはな。
「どうしたんだよ政貴。もしかして、代表リレーに選ばれたのを気にしてたり?」
笹原が隣に並んだ。俺は「あっ」と声を上げて立ち止まる。しまった。リレーを辞退する旨を西条に伝えること、すっかり忘れてた。
「やらかした……体育祭の練習、来週から始まるってのに」
今日は金曜日だ。つまり、三日後の月曜には早くも本格的な練習がスタートする。今のうちに伝えないと、後で退こうにも退けなくなってしまう。
「なぁ。政貴がリレー嫌がるのって、西条さんと何か関係あんの?」
「……別に、西条と直接の関係はない。ただ……」
中学時代の苦い記憶がフラッシュバックする。クソ。今更どう説明したものか。
「あれ?今日って金曜だっけ?」
突然、笹原がポケットからスマホを取り出した。能天気なテンションに、ほんの今まで煮詰まっていた頭が空っぽになる。
「……金曜だけど、どうした?」
「いっけね!今日部活だった!」
笹原が口元に手を当てる。俺は呆れとも怒りともつかない何かが胸に押し寄せ、溜息と共に吐き出した。
「もうお前、とっとと逝けよ」
「おう!行ってくる!香織先輩に会いに!」
そう言って、笹原は片想いの先輩が待つ放送室に駆けて行った。普段から放送禁止用語ばっか言ってるのに放送部員とか、マジでなめてんだろ。
「…………なんか、すげえ疲れた」
一人になると、急激な脱力感に襲われた。階段を下り、昇降口に着いて靴を履き替える。外に出ると、校庭を走り回る運動部の姿が映った。特別棟からは吹奏楽部の演奏が聞こえてくる。どこか感傷的なメロディに、一度は葬った記憶が再び蘇る。
放課後。日直の仕事として教室のカーテンを締めていると、背中から呑気な声がした。振り向くと、笹原が机上に尻を降ろして、ぽちぽちとスマホを構っていた。
「アイツらが揉めるのなんて、いつものことだろ」
素っ気なく呟く。西条と上垣はまさに犬猿の仲だ。何か行事があるたびに衝突し合っている。
「西条さん、女子なのにすげえ度胸だよな。俺、上垣とか怖くて近づけないもん」
笹原が大袈裟に身震いする。確かに上垣のオーラは威圧的だ。迂闊に関わろうとは思わない。だが、個人的に上垣のことは嫌いじゃない。アイツは西条に反発する時、暴論や我儘ではなく、あくまで正論で対抗するのだ。今日だって言い方こそキツかったが、空気を読まずに綺麗事ばかり謳う西条より、遥かにマシだった。
「……笹原はさ、西条と上垣、どっちが信頼できる?」
「え?どしたの突然?」
笹原がスマホから顔を上げる。正気を疑うような目で見られた。
「べ、別に深い意味じゃない。お前だったら、どっちについていくかって話だよ」
俺は誤魔化すようにシャッ!と最後のカーテンを締めた。光が断ち切られ、教室の薄暗さが一気に増す。
「そりゃあーもちろん、二年連続カワイ子ちゃんランキング一位の西条さんだろ!」
「…………お前に聞いた俺がバカだった」
「⁉ちょっ、流石に酷くない⁉」
笹原が机から滑り落ちる。俺は冷ややかな視線を送ってから、足早に教室を後にした。
「待てって!さっきのは一部冗談だよ!」
背後からドタドタと足音が追いかけてきた。俺は鬱陶しさを我慢して振り返る。
「なんか、流石に呆れたわ」
俺は軽蔑するように言った。ただし、自分自身に対して。
……まさか西条への不信感を、一瞬でも他人の口から聞きたいと思ってしまうとはな。
「どうしたんだよ政貴。もしかして、代表リレーに選ばれたのを気にしてたり?」
笹原が隣に並んだ。俺は「あっ」と声を上げて立ち止まる。しまった。リレーを辞退する旨を西条に伝えること、すっかり忘れてた。
「やらかした……体育祭の練習、来週から始まるってのに」
今日は金曜日だ。つまり、三日後の月曜には早くも本格的な練習がスタートする。今のうちに伝えないと、後で退こうにも退けなくなってしまう。
「なぁ。政貴がリレー嫌がるのって、西条さんと何か関係あんの?」
「……別に、西条と直接の関係はない。ただ……」
中学時代の苦い記憶がフラッシュバックする。クソ。今更どう説明したものか。
「あれ?今日って金曜だっけ?」
突然、笹原がポケットからスマホを取り出した。能天気なテンションに、ほんの今まで煮詰まっていた頭が空っぽになる。
「……金曜だけど、どうした?」
「いっけね!今日部活だった!」
笹原が口元に手を当てる。俺は呆れとも怒りともつかない何かが胸に押し寄せ、溜息と共に吐き出した。
「もうお前、とっとと逝けよ」
「おう!行ってくる!香織先輩に会いに!」
そう言って、笹原は片想いの先輩が待つ放送室に駆けて行った。普段から放送禁止用語ばっか言ってるのに放送部員とか、マジでなめてんだろ。
「…………なんか、すげえ疲れた」
一人になると、急激な脱力感に襲われた。階段を下り、昇降口に着いて靴を履き替える。外に出ると、校庭を走り回る運動部の姿が映った。特別棟からは吹奏楽部の演奏が聞こえてくる。どこか感傷的なメロディに、一度は葬った記憶が再び蘇る。

