『たった今、四組の第三走者にバトンが渡りましたぁ!我が高の誇る天才ボクサー、上垣龍牙が現在首位の一組を追います!』
校庭中央に着くと、すでにリレーは佳境に入っていた。現在四組は二位。大歓声の中、上垣がトラックを爆走している。
本来、四組の第三走者は俺だった。だが今は、アンカーである上垣が代わりに走ってくれている。きっと俺が来ることを信じて直前で走順を変えたのだろう。
「ありがとな、上垣」
ぽつりと感謝を漏らす。今回の体育祭は、本当にアイツに助けられた。多分上垣がいなかったら、もっと早くにクラスは崩壊してた。
『関係ならある。お前はいつだって前向きな西条が羨ましいんだ』
いつか、上垣に放った言葉を思い出す。あの時の上垣は図星を突かれて驚いていたが、今思えば、随分と酷いことをした。
だって、西条のことを羨ましく思っていたのは、俺も同じだから。
『さぁ一組が第四走者に突入!僅かに遅れて四組!首位争いは続きます!』
上垣が走り終え、四人目にバトンが渡った。変わらず俺たちは一組の後を追う。その差はほんの僅か。俺は譲り受けたアンカーの使命を果たすため、いよいよ第五走者のレーンに立った。
緊張が、全身を駆け巡った。午後の校庭に響く熱狂が、ビリビリとした刺激となって肌を震わせた。すぐ横の本部席では、笹原が身を乗り出して実況している。向こう側のテントでは、四組の連中が固唾を飲んで見守っていた。その端の方に西条を見つける。胸の前で祈るように手を組んでいた。
「……よし」
呼吸を落ち着ける。第四走者が迫ってくるのを見て、スタートの構えを作った。中学の陸上大会を思い出す。もう、何も怖れることはない。
『!ついに、アンカーにバトンが渡りました!ラストランの火蓋が今切られたぁー!』
一組のアンカーが走り出す。俺はその数瞬後にバトンを受け取る。溜めていた力を爆発させ、思い切り地を蹴った。
「うっ……おおおおおお!」
向かい風にぶつかるように、走る。一組のアンカーは目の前だ。俺の方が速い。越せる。
『あーっと!四組が一組に並んだ!これは逆転あるか⁉政貴っ!頼む!頑張れぇぇ‼』
死に物狂いで走った。膝の関節が弾けて今にもブッ飛びそうだ。肌と肌が触れ合うほどの隣を、一組のアンカーが走っている。
―気持ち良かった。全力を出せていることが。何かに対して、本気になれていることが。
俺はずっと、西条に憧れてた。たとえ周囲から揶揄されようが、自分の中の信念を決して曲げない強さに惹かれていた。冷めた目で世の中を見るんじゃなく、俺も、あんなふうに生きたかった。
「いけるぞ久保!」
「久保ォ!とっとと抜かせ!」
「久保くん、頑張って!」
矢野先生と、上垣と、七瀬の応援が耳に届いた。全身に力が漲る。まだ加速できる。
『!四組が前に出た!』
ワアッと歓声が昇る。ほんの数センチ後ろに、一組アンカーの歯を食い縛る顔があった。
何とか追い越した。このまま逃げ切れば―
「……久保くんっ!」
その時、テントの前で応援する西条と目が合った。痛む足首をよそに、立ち上がって声援を飛ばしている。
―俺、なれたかな?お前みたいな、格好良い物語の主人公に。
全ての歓声が、秋の青空に吸い込まれた時。俺は、ゴールテープを切った。
校庭中央に着くと、すでにリレーは佳境に入っていた。現在四組は二位。大歓声の中、上垣がトラックを爆走している。
本来、四組の第三走者は俺だった。だが今は、アンカーである上垣が代わりに走ってくれている。きっと俺が来ることを信じて直前で走順を変えたのだろう。
「ありがとな、上垣」
ぽつりと感謝を漏らす。今回の体育祭は、本当にアイツに助けられた。多分上垣がいなかったら、もっと早くにクラスは崩壊してた。
『関係ならある。お前はいつだって前向きな西条が羨ましいんだ』
いつか、上垣に放った言葉を思い出す。あの時の上垣は図星を突かれて驚いていたが、今思えば、随分と酷いことをした。
だって、西条のことを羨ましく思っていたのは、俺も同じだから。
『さぁ一組が第四走者に突入!僅かに遅れて四組!首位争いは続きます!』
上垣が走り終え、四人目にバトンが渡った。変わらず俺たちは一組の後を追う。その差はほんの僅か。俺は譲り受けたアンカーの使命を果たすため、いよいよ第五走者のレーンに立った。
緊張が、全身を駆け巡った。午後の校庭に響く熱狂が、ビリビリとした刺激となって肌を震わせた。すぐ横の本部席では、笹原が身を乗り出して実況している。向こう側のテントでは、四組の連中が固唾を飲んで見守っていた。その端の方に西条を見つける。胸の前で祈るように手を組んでいた。
「……よし」
呼吸を落ち着ける。第四走者が迫ってくるのを見て、スタートの構えを作った。中学の陸上大会を思い出す。もう、何も怖れることはない。
『!ついに、アンカーにバトンが渡りました!ラストランの火蓋が今切られたぁー!』
一組のアンカーが走り出す。俺はその数瞬後にバトンを受け取る。溜めていた力を爆発させ、思い切り地を蹴った。
「うっ……おおおおおお!」
向かい風にぶつかるように、走る。一組のアンカーは目の前だ。俺の方が速い。越せる。
『あーっと!四組が一組に並んだ!これは逆転あるか⁉政貴っ!頼む!頑張れぇぇ‼』
死に物狂いで走った。膝の関節が弾けて今にもブッ飛びそうだ。肌と肌が触れ合うほどの隣を、一組のアンカーが走っている。
―気持ち良かった。全力を出せていることが。何かに対して、本気になれていることが。
俺はずっと、西条に憧れてた。たとえ周囲から揶揄されようが、自分の中の信念を決して曲げない強さに惹かれていた。冷めた目で世の中を見るんじゃなく、俺も、あんなふうに生きたかった。
「いけるぞ久保!」
「久保ォ!とっとと抜かせ!」
「久保くん、頑張って!」
矢野先生と、上垣と、七瀬の応援が耳に届いた。全身に力が漲る。まだ加速できる。
『!四組が前に出た!』
ワアッと歓声が昇る。ほんの数センチ後ろに、一組アンカーの歯を食い縛る顔があった。
何とか追い越した。このまま逃げ切れば―
「……久保くんっ!」
その時、テントの前で応援する西条と目が合った。痛む足首をよそに、立ち上がって声援を飛ばしている。
―俺、なれたかな?お前みたいな、格好良い物語の主人公に。
全ての歓声が、秋の青空に吸い込まれた時。俺は、ゴールテープを切った。

