プログラムはつつがなく進行し、気付けば午前の部が終わった。最後に行われた騎馬戦では、上垣率いる四組の巨漢軍団が見事一位に輝いた。おかげで俺たちは大幅にポイントを得て、クラス優勝にぐっと近づいた。昼休憩を挟み、降り注ぐ陽光が強まった頃。いよいよ午後の部が開演した。最初の競技は、この一週間、俺たちが最も苦労したであろう大繩だ。
 「これから本番を迎えることになるけど……みんなには、今までの日々を思い返して欲しいの」
 校庭の中央。四組の縄が用意された位置につくと、西条が口を開いた。
 「今までっていうのは、この一週間じゃなくて、今日まで送ってきた人生よ。きっと、それぞれに色んな壁があったと思う。だけどみんな挫けずに、今日まで生きてきた。困難を打ち倒した人も、そこから逃げた人もいるかも。だけど、私たちは決して止まらなかった。人生という名の物語を紡ぎ続けた」
 西条は涙ぐんでいた。少し大袈裟な気もするが、彼女の本気が伝わったのだろう。誰も茶化さず、真面目に聞いていた。
 「そんな私たちなら、絶対に大丈夫。自分と仲間を信じて。最後の大繩、楽しみましょう!」
 西条が拳を掲げた。それに倣って「おー!」と手が挙がる。つい先週までは、挙がらなかった手が。
 「うし、やるぞ」
 バン、と背中を叩かれた。振り返ると、上垣が立っていた。闘志の宿った目つきで、虚空を見据えている。そこにはもう、怪我を引きずって不貞腐れていた頃の面影はなかった。
 「……おう」
 俺は顔を俯ける。昼下がりの太陽が眩しかった。
 ……いや違う。本当は、上垣の顔が眩しかった。クラスメイトの顔も、七瀬の顔も、西条の顔も。この短期間で見違えるほど変わった、みんなの顔が、痛いくらいに眩しかった。
 自分はどうだろう。西条たちは変わったが、俺自身は?考える。俺は、何も変わってない。この日々を通して俺がやったことと言えば…………冷めた頭で他人を分析して、気まぐれで言葉を投げただけ。そこに明確な意志はなく、西条や上垣のように自分の美学に彩られた行動ではない。何となく流されるまま、その時々の状況に合った選択を選んだだけだ。
 ひゅう、と風が吹いた。目の前でクラスメイトが列を作っている。西条が最後の指示を出す。みんなは緊張しながらも、互いに頷き合って膝を屈める。いよいよ本番だ。クラスの士気と団結は、かつてないほど高まっていた。
 ――何だろう、この孤独感は。まるで、自分だけがクラスから取り残されたみたいだ。
 「久保くん、頼むわね」
 西条の声が聞こえた。直接意識に響いてくるようだった。
 空っぽの心のまま頷き、縄を握り締める。やがて、競技開始を告げる空砲が鳴った。