二日目の練習が終わった後。校庭を去る道すがら、なんと七瀬に話しかけられた。大繩について相談があるとのことで、俺は「ズルい!なんでお前だけ!」と喚く笹原を帰して、外にある水飲み場の前で話すことにした。
 「あ、あの……急に、ごめん」
 「別にいいぞ。その……俺も、七瀬には悪いことしたし」
 真っ赤な顔を俯ける七瀬に、俺はバツ悪く呟いた。
 「え?私に悪いことって?」
 「いやほら。昨日の練習で」
 それから俺は、昨日西条と一緒に七瀬を追い詰めたことを詫びた。すると彼女は激しすぎるくらいに首を振って許してくれた。よかった……これで肩の荷が降りた。
 「で?大繩について相談ってのは?」
 俺は本題に戻る。多分上手く跳べてないことを気にしてるんだろう。だけど少なくとも、今日の練習では昨日よりも回数が伸びた。そのことからも、多分七瀬は大繩に慣れてなくて自信がないだけだ。練習を重ねて自信がつけば、もっとミスも減る。だから俺は、この突然の相談をそれほど深刻に捉えてなかった。
 「ごめん。さっきは笹原くんがいたから……本当は、西条さんについての相談なの」
 「!」
 心臓が引き絞られる。なぜか額に脂汗が浮かんだ。
 「私、昨日、みんなの前で泣いちゃって……それで逃げ出して、保健室で休んでたの。そしたら西条さんが後を追ってきたんだけど、保健室の先生に頼んで帰してもらったの。流石に顔を合わせられる気分じゃなかったから……」
 七瀬がポツポツと語り出す。俺はそれを黙って聞いた。
 「それで私、西条さんに悪いことしたなって……そう思ってたら、昨日と今日ですっかり人が変わったみたいで。もしかしたら、私のせいなのかなって……」
 七瀬が校庭に視線を送る。俺も同じ方角を見た。そこには、他クラスの委員長と会話を交わす西条がいた。表情は暗く、居残り練習をする他クラスを静かに見つめていた。
 「西条がああなったのは、七瀬のせいじゃない。アイツはやっと、自分の過ちに気付いた。今の状況は、アイツが納得して選んだんだ」
 「でも西条さん、今日の練習の時、ずっと悲しそうだった」
 七瀬の言葉に、俺は頬の内側を噛んだ。そんなこと、言われなくても分かってる。
 「あのね久保くん。私、運動音痴だし、みんなの足手まといになってばかりだけど……私も、西条さんと一緒に優勝を目指したい」
 「……本気なのか?」
 俺の問いかけに、七瀬はコクリと頷いた。その表情に気弱な色はなく、強い決意が滲んでいた。
 「久保くんは?」
 「え?」
 唐突な問いに、俺は目を丸めた。七瀬が真っ直ぐにこちらを見ている。
 「久保くんは、この体育祭をどうしたい?」
 「……俺は」
 グッと拳を握り締める。すると自分の胸に、たしかな闘志が宿るのを感じた。