翌日の午後。昨日に引き続き、俺たちは練習のため校庭に集まっていた。秋の太陽が照りつける中、体操服に身を包んだ生徒がクラスごとに集団を作っている。
「はぁ……何が悲しくて今日も縄回しなんか……」
「お前が人の忠告聞かないからだろ」
全身筋肉痛だと嘆く笹原をいなしながら、俺はクラスメイトを見渡した。お世辞にも統率が取れているとは言えず、みんなダラダラと座り込んでいる。一方、よそのクラスはすでに練習に取り掛かっていて、やる気に満ちた掛け声を辺りに響かせていた。
俺は無意識に西条を捜す。どこだ。アイツがいないと、いつまで経っても練習が…
「みんな。少しだけ、耳を貸してくれるかしら」
その時。前方で西条の声がした。楽しそうに話していた連中の顔色が変わる。
「え、誰か何か言った?それとも、私の気のせい?」
「気のせいっしょ!きゃはは!」
一部の女子が冷やかした。西条の顔が微かに歪む。
「西条さん、七瀬を泣かしてから明らかにヘイト買ったよなぁ」
笹原が気の毒そうに言う。俺はチラリと目を動かして、みんなに紛れてポツリと体育座りをする七瀬を見つける。一応、練習には来ているようだ。
「……これまでのことで、みんなに謝りたいの。どうか、聞いてくれるかしら」
西条が神妙な面持ちで言った。その畏まった態度に、茶化していた奴らも目を向けた。
「私は今まで、身勝手な理想をあなたたちに押し付けていた。体育祭で優勝したいとか、最高の思い出を作りたいとか。……正直、今でもこの意見が間違っているとは思わない。だけどそれは、私一人にとっての正しさであって、他の人の正しさでは決してない。そんな当たり前のことを忘れていた。……本当に、ごめんなさい」
絞り出すように言葉を紡ぐと、西条は頭を下げた。長い髪が地面に垂れる。
「それでこれからは……私の理想で、もう誰も振り回さない。だから、体育祭は各々が好きに楽しんでほしい。今後一切、私の欲望は押し付けないから」
西条の言葉に、クラスの連中は黙り込む。急すぎる彼女の変化に、頭が追いつかない。そんな感じだった。
「じゃあさ。もう優勝、諦めんの?」
笹原が訊ねた。みんなの視線が西条に向かう。
「私個人としては、優勝を目指すわ。そこは変わらない。だけど、それを他の人に強制はしない。私は私、みんなはみんな。それぞれのやり方で楽しむのが、一番だわ」
西条が寂し気に笑う。生徒たちは顔を見合わせ、次々に口を開いた。ようやくどよめきが広がる。
「なあ、西条さんどうしたんだ?なんか急にキャラ変しちゃって……」
笹原が腑に落ちない様子で言った。
「……色々あったんだろ」
投げやりに答える。その色々を、誰よりも知っているのは俺だ。だけどそれはあえて言わない。これは西条が下した決断だ。俺の出る幕じゃない。
「話は終わりよ。それじゃあ、今日も大繩を練習したいと思うけど……」
西条が手に持った縄を揺らした。すると、数人の男子が控えめに挙手した。
「悪い。俺ら、パスしていい?なんか足痛くてさ」
「……ええ。怪我なら仕方ないわ」
西条が許可すると、男子たちはそそくさと去った。それをきっかけに、多くの生徒が見学を申し出た。人数は徐々に減り、残ったのは俺と笹原、それに七瀬も含めて十人程度だった。
「じゃあ、このメンバーで練習しましょうか」
西条が指示を出す。その声にいつもの活気はなかった。誰もが唇を結び、吹き付ける風が肌に刺さった。俺は昨日と同じく縄を掴むと、豆が痛むのを無視して強く握り締めた。
なあ西条。本当にこれで、良かったのか?
「はぁ……何が悲しくて今日も縄回しなんか……」
「お前が人の忠告聞かないからだろ」
全身筋肉痛だと嘆く笹原をいなしながら、俺はクラスメイトを見渡した。お世辞にも統率が取れているとは言えず、みんなダラダラと座り込んでいる。一方、よそのクラスはすでに練習に取り掛かっていて、やる気に満ちた掛け声を辺りに響かせていた。
俺は無意識に西条を捜す。どこだ。アイツがいないと、いつまで経っても練習が…
「みんな。少しだけ、耳を貸してくれるかしら」
その時。前方で西条の声がした。楽しそうに話していた連中の顔色が変わる。
「え、誰か何か言った?それとも、私の気のせい?」
「気のせいっしょ!きゃはは!」
一部の女子が冷やかした。西条の顔が微かに歪む。
「西条さん、七瀬を泣かしてから明らかにヘイト買ったよなぁ」
笹原が気の毒そうに言う。俺はチラリと目を動かして、みんなに紛れてポツリと体育座りをする七瀬を見つける。一応、練習には来ているようだ。
「……これまでのことで、みんなに謝りたいの。どうか、聞いてくれるかしら」
西条が神妙な面持ちで言った。その畏まった態度に、茶化していた奴らも目を向けた。
「私は今まで、身勝手な理想をあなたたちに押し付けていた。体育祭で優勝したいとか、最高の思い出を作りたいとか。……正直、今でもこの意見が間違っているとは思わない。だけどそれは、私一人にとっての正しさであって、他の人の正しさでは決してない。そんな当たり前のことを忘れていた。……本当に、ごめんなさい」
絞り出すように言葉を紡ぐと、西条は頭を下げた。長い髪が地面に垂れる。
「それでこれからは……私の理想で、もう誰も振り回さない。だから、体育祭は各々が好きに楽しんでほしい。今後一切、私の欲望は押し付けないから」
西条の言葉に、クラスの連中は黙り込む。急すぎる彼女の変化に、頭が追いつかない。そんな感じだった。
「じゃあさ。もう優勝、諦めんの?」
笹原が訊ねた。みんなの視線が西条に向かう。
「私個人としては、優勝を目指すわ。そこは変わらない。だけど、それを他の人に強制はしない。私は私、みんなはみんな。それぞれのやり方で楽しむのが、一番だわ」
西条が寂し気に笑う。生徒たちは顔を見合わせ、次々に口を開いた。ようやくどよめきが広がる。
「なあ、西条さんどうしたんだ?なんか急にキャラ変しちゃって……」
笹原が腑に落ちない様子で言った。
「……色々あったんだろ」
投げやりに答える。その色々を、誰よりも知っているのは俺だ。だけどそれはあえて言わない。これは西条が下した決断だ。俺の出る幕じゃない。
「話は終わりよ。それじゃあ、今日も大繩を練習したいと思うけど……」
西条が手に持った縄を揺らした。すると、数人の男子が控えめに挙手した。
「悪い。俺ら、パスしていい?なんか足痛くてさ」
「……ええ。怪我なら仕方ないわ」
西条が許可すると、男子たちはそそくさと去った。それをきっかけに、多くの生徒が見学を申し出た。人数は徐々に減り、残ったのは俺と笹原、それに七瀬も含めて十人程度だった。
「じゃあ、このメンバーで練習しましょうか」
西条が指示を出す。その声にいつもの活気はなかった。誰もが唇を結び、吹き付ける風が肌に刺さった。俺は昨日と同じく縄を掴むと、豆が痛むのを無視して強く握り締めた。
なあ西条。本当にこれで、良かったのか?

