私が生まれる少し前のこと。
世界は、ある奇妙な病気の出現によって大きく変わった。人と人とが誰かと触れ合うことすら慎重に選ばなければならなかった時代。学校は閉鎖され、劇場は暗くなり、笑い声や拍手の響く場所は遠いものとなった。
けれど、私が物心ついたときには、もうその病気の話をする人はほとんどいなかった。怖がるのでも気にかけるのでもない。ただ、どこかに忘れられたかのように。
でも、その病もその患者も、今でも確かに存在している。
その病気の名を存在認識障害症候群――通称、虚構症候群という。
世界は、ある奇妙な病気の出現によって大きく変わった。人と人とが誰かと触れ合うことすら慎重に選ばなければならなかった時代。学校は閉鎖され、劇場は暗くなり、笑い声や拍手の響く場所は遠いものとなった。
けれど、私が物心ついたときには、もうその病気の話をする人はほとんどいなかった。怖がるのでも気にかけるのでもない。ただ、どこかに忘れられたかのように。
でも、その病もその患者も、今でも確かに存在している。
その病気の名を存在認識障害症候群――通称、虚構症候群という。
