告白された、親友の好きな人に

 二年生に進級した。
 新しい教室に、新しい教科書。
 担任の先生は去年と同じなので、そこだけは新しさがない。
 
「よっ! また同じクラスだな! よろしく!」
 
「よろしく、布藤」
 
 布藤とは、同じクラスになった。
 
「にしても、仁藤さんは別のクラスかあ」
 
「残念だね」
 
 布藤とは、違うクラスになった。
 
 仁藤さんと違うクラスになったことで、ちょっと安心した自分がいた。
 たまに動いていた仁藤さんとのメッセージアプリも、この春休みは一回も動くことはなかった。
 
 委員会決めが始まると、先生は立候補を募るよりも先に、ぼくに声をかけてきた。
 
「よーしじゃあ、学級委員だが、正田。今年も頼めないか?」
 
 おおかた、去年雑用を押し付けやすかったぼくを、今年もと思ったのだろう。
 でも、今年はやりたくない。

「今年は、辞めておきます」
 
「なんでだ? 去年の正田の仕事っぷり、先生は評価してるんだぞ?」
 
「今年は、別の委員をやってみたいので」
 
「そっかあ」
 
 先生は、明らかに落ち込んだ表情をしていた。
 別の委員をやってみたいのは、本当だ。
 嘘じゃない。
 それ以上に、仁藤さんと同じ委員会になりたくないという想いはあるが。
 仁藤さんと同じ委員会になってしまうと、月に一回の集まりで嫌でも顔を合わせてしまうことになるから。
 それは、仁藤さんも望んではいないだろう。
 
「じゃあ、他に学級委員やりたいやつは」
 
「はい!」
 
 ぼくを諦めた先生がクラス全体に聞くと、一人の生徒が勢い良く手を挙げた。
 布藤だ。
 布藤は学級委員を率先してやりたがるタイプではなかったので、ぼくは目を丸くして驚いた。
 先生も、他の同級生たちもそうなのだろう、皆目を丸くして布藤を見ている。
 
「おおう。お前、学級委員なんてやりたがる柄だったか?」
 
「はい! 俺、学級委員大好きです! むしろ学級委員しかしたことないです!」
 
「いやお前、去年体育委員だったじゃないか」
 
 先生は、不安そうに布藤を見てから教室全体を見渡して、他に手を上げそうな生徒がいないとわかると渋々黒板に布藤の名前を書いた。
 不安ではあるが、先生の一存で、立候補した生徒を拒否するのはできないのだろう。
 
「じゃあ、男子は布藤で決定で。女子は、誰かいないか?」
 
 女子の学級委員は誰も手を挙げなかったので、最後にはじゃんけんで決まった。
 新しい学級委員である布藤たちの進行で、委員会決めは進んでいった。
 
「じゃあ、図書委員! 早い者勝ち!」
 
「…………」
 
「村田君、図書委員どう? 教室でよく本読んでるし、俺ぴったりだと思うんだよね!」
 
「え、あ」
 
 布藤が学級委員になるのは正直ぼくも不安だったが、持ち前の明るい性格が上手くはまって、進行はつつがなく進んでいった。
 誰も挙手しなければ学級委員が指名するという、布藤流によって。
 
「次、風紀委員!」
 
「はい」
 
「はい、正! 風紀委員、他に希望者はいるか? いないな。じゃあ、正で決定!」
 
 ぼくも無事、もう一つのやりたい委員だった風紀委員になることができた。
 
 委員会決めが終わった後の休み時間。
 ぼくは布藤に、立候補の理由を聞いてみた。
 
「布藤、学級委員に立候補したのって?」
 
「ああ。仁藤さんと一緒になれるかもしれないだろ?」
 
 布藤からは、予想通りの答えが返ってきた。
 
「仁藤さん、今年も学級委員やりたいって言ってたの?」
 
「いんや、知らない。でも、やるかもしれないじゃないか。ただでさえ、クラスが離れて話す機会が減りそうなんだ。仁藤さんと一緒にいられる可能性があるなら、俺はなんだってやってやるさ」
 
 布藤のまっすぐな目を見て、ぼくは仁藤さんの告白を断った自分の決断は間違ってなかったと再認識した。
 布藤は、仁藤さんに対してまっすぐだ。
 布藤なら、きっと仁藤さんを幸せにできる。
 自分の感情にも気が付かず、仁藤さんを傷つけてばかりのぼくなんかよりもずっと。
 
 そして放課後。
 
「じゃあ、行ってくるぜ!」
 
 布藤は、学級委員の女子を引き連れて、最初の学級委員の集まりへと向かっていった。
 どこかわくわくしたような、どこか緊張したような、ぎこちない足取りで。
 
「ぼくも行こうかな」
 
 ぼくは一人で、風紀委員の集まりへと向かった。
 
 既にたくさんの人が到着しているらしく、集合場所の教室からはがやがやと談笑する声が聞こえていた。
 ぼくは談笑の邪魔にならないように、そっと教室の扉を開けた。
 教室にいる生徒たちの視線が一斉にぼくの方を向き、一人を除いて視線を元に戻した。
 
「あ」
 
「あ」
 
 窓際の席に座っていた仁藤さんだけは、しばらくぼくを見ていた。
 
 ぼくは気まずさを抱えて仁藤さんから視線をそらし、仁藤さんから一番離れた扉側の席に着席した。
 
「おーい、そんな遠くでいいのか?」
 
「目がいいので大丈夫です」
 
 おせっかいな三年生がぼくに手招きをし、もっと近くに来るように促すが、指差した席が仁藤さんに近かったので断固として移動を拒んだ。
 
 運が悪い。
 また、仁藤さんと同じ委員になってしまうなんて。
 自分の運命を呪いながら、委員会が始まるまでの間、ぼくはじっと前だけを見ていた。
 途中に一瞬だけ仁藤さんのほうを見てしまったが、一瞬だけしか見ていないはずなのに、仁藤さんと視線が合った。
 ぼくは、ふいっと目をそらした。
 
 胸が痛い。
 これは恋なのか。
 それとも罪悪感なのか。
 最初の風紀委員の集まりで何を言われたか、ぼくはほとんど覚えていない。
 
 
 
「いいなあ、正! また仁藤さんと一緒の委員会かよ!」
 
 そんなぼくの気も知らずに、布藤はぼくをただ羨ましがっていた。