修了式。
ぼくは仁藤さんと、学級委員の集まりで使っていた教室にいた。
すでに今年度の委員会は終わっているので、誰も来る心配はない。
教室に入った仁藤さんの表情は、告白された日と同じでぎこちない作り笑いをしていたが、ぼくの顔を見た瞬間泣きそうな顔に変わっていた。
ぼくも、仁藤さんのことを笑えないくらい、表情を取り繕うのが下手らしい。
仁藤さんは一瞬立ち止まったものの、震える足でぼくの前まで歩いてきた。
「返事、聞かせてくれるんだよね?」
仁藤さんの震える声に、ぼくは無言で頷いた。
ぼくの心臓は、告白された日と同じくらい、強く速く打っていた。
糸で縫い付けられたくらいに硬い口を何とか開き、仁藤さんに負けず劣らず震える声で、ぼくは言った。
「ごめんなさい。仁藤さんとは付き合えません」
頭を下げたのは、誠意なんかじゃない。
ただただ、ぼくが仁藤さんの顔を見れなかったからだ。
床を見ながら、ぼくは覚悟を決めていた。
仁藤さんが怒ってきたら、潔く受け入れよう。
仁藤さんがひっぱたいてきたら、潔く受け入れよう。
仁藤さんに付き合えない理由を聞かれたら、「好きじゃないから」と嘘をつこう。
仁藤さんが好きだという気持ちを悟られないまま、仁藤さんに嫌われよう。
静かな教室の中で、じっと床を見続けていた。
「そっか。わかった」
仁藤さんの声が聞こえて、ぼくはようやく顔を上げた。
泣いている仁藤さんと目が合って、また床に視線を戻したくなったが、ぐっと我慢して仁藤さんの目を見続けた。
「じゃあ、これからも、友達として……仲良く……」
仁藤さんの目から零れる涙が増えていき、仁藤さんが言葉を発しようとするたびに嗚咽が邪魔をしていた。
思わず涙をぬぐってあげたい衝動にかられたけど、ぼくにそんな資格はなかった。
「ご、ごめ……」
「うん。これからも、友達として仲よくしよう」
嗚咽を漏らす仁藤さんは、言いたいことを言えてなかった。
だから、代わりにぼくが言った。
仁藤さんの言いたいことを、代わりに。
ぼくの言葉を聞いた仁藤さんは、何度かコクコクと頷いた後、走って教室を出ていった。
ぼくは、仁藤さんの背中をただ見送った。
当然、仁藤さんを追う資格もないのだから。
廊下に響く仁藤さんの足音が聞こえなくなるまで、ぼくはずっと教室で待っていた。
ぼくにできることは、泣きはらした仁藤さんが、誰にも顔を見られずに家まで帰れることを祈るだけだ。
幸い、今日は修了式。
ほとんどの同級生は打ち上げに向かうらしく、校門の前に集まっている。
裏口の方から出れば、誰とも会うことなく帰ることはできるだろう。
「あー、終わったぁ」
足音が聞こえなくなったころ、ようやくぼくの目から涙が零れ落ちてきた。
泣く資格なんてないっていうのに。
勝手に布藤と約束をして、勝手に仁藤さんを傷つけて。
こんな酷い自分にも、まだ悲しいと思える感情があるなんてびっくりだった。
「う……。く……。ひっく……」
誰もいない教室に、今度はぼくの嗚咽だけが響いた。
「なあ、正。仁藤さん知らね? なんか、校内に戻ってったって聞いてさ」
「え? 見てないよ」
布藤がぼくのところへ来たのが、ぼくがトイレで顔を洗って、泣き跡を全部消し終えた後でよかった。
「ん? なんか、目赤くね?」
「ああ、もしかしたら花粉症かも」
「お前、花粉症だったっけ?」
「年を取ったら花粉症になることがあるらしいよ。へくしゅんっ!」
わざとらしい咳をした後で、ぼくは布藤と一緒に帰路に就いた。
布藤は、もしかしたら仁藤さんと帰る機会があるかもと、クラスの打ち上げにはいかなかったらしい。
ぼくは仁藤さんと、学級委員の集まりで使っていた教室にいた。
すでに今年度の委員会は終わっているので、誰も来る心配はない。
教室に入った仁藤さんの表情は、告白された日と同じでぎこちない作り笑いをしていたが、ぼくの顔を見た瞬間泣きそうな顔に変わっていた。
ぼくも、仁藤さんのことを笑えないくらい、表情を取り繕うのが下手らしい。
仁藤さんは一瞬立ち止まったものの、震える足でぼくの前まで歩いてきた。
「返事、聞かせてくれるんだよね?」
仁藤さんの震える声に、ぼくは無言で頷いた。
ぼくの心臓は、告白された日と同じくらい、強く速く打っていた。
糸で縫い付けられたくらいに硬い口を何とか開き、仁藤さんに負けず劣らず震える声で、ぼくは言った。
「ごめんなさい。仁藤さんとは付き合えません」
頭を下げたのは、誠意なんかじゃない。
ただただ、ぼくが仁藤さんの顔を見れなかったからだ。
床を見ながら、ぼくは覚悟を決めていた。
仁藤さんが怒ってきたら、潔く受け入れよう。
仁藤さんがひっぱたいてきたら、潔く受け入れよう。
仁藤さんに付き合えない理由を聞かれたら、「好きじゃないから」と嘘をつこう。
仁藤さんが好きだという気持ちを悟られないまま、仁藤さんに嫌われよう。
静かな教室の中で、じっと床を見続けていた。
「そっか。わかった」
仁藤さんの声が聞こえて、ぼくはようやく顔を上げた。
泣いている仁藤さんと目が合って、また床に視線を戻したくなったが、ぐっと我慢して仁藤さんの目を見続けた。
「じゃあ、これからも、友達として……仲良く……」
仁藤さんの目から零れる涙が増えていき、仁藤さんが言葉を発しようとするたびに嗚咽が邪魔をしていた。
思わず涙をぬぐってあげたい衝動にかられたけど、ぼくにそんな資格はなかった。
「ご、ごめ……」
「うん。これからも、友達として仲よくしよう」
嗚咽を漏らす仁藤さんは、言いたいことを言えてなかった。
だから、代わりにぼくが言った。
仁藤さんの言いたいことを、代わりに。
ぼくの言葉を聞いた仁藤さんは、何度かコクコクと頷いた後、走って教室を出ていった。
ぼくは、仁藤さんの背中をただ見送った。
当然、仁藤さんを追う資格もないのだから。
廊下に響く仁藤さんの足音が聞こえなくなるまで、ぼくはずっと教室で待っていた。
ぼくにできることは、泣きはらした仁藤さんが、誰にも顔を見られずに家まで帰れることを祈るだけだ。
幸い、今日は修了式。
ほとんどの同級生は打ち上げに向かうらしく、校門の前に集まっている。
裏口の方から出れば、誰とも会うことなく帰ることはできるだろう。
「あー、終わったぁ」
足音が聞こえなくなったころ、ようやくぼくの目から涙が零れ落ちてきた。
泣く資格なんてないっていうのに。
勝手に布藤と約束をして、勝手に仁藤さんを傷つけて。
こんな酷い自分にも、まだ悲しいと思える感情があるなんてびっくりだった。
「う……。く……。ひっく……」
誰もいない教室に、今度はぼくの嗚咽だけが響いた。
「なあ、正。仁藤さん知らね? なんか、校内に戻ってったって聞いてさ」
「え? 見てないよ」
布藤がぼくのところへ来たのが、ぼくがトイレで顔を洗って、泣き跡を全部消し終えた後でよかった。
「ん? なんか、目赤くね?」
「ああ、もしかしたら花粉症かも」
「お前、花粉症だったっけ?」
「年を取ったら花粉症になることがあるらしいよ。へくしゅんっ!」
わざとらしい咳をした後で、ぼくは布藤と一緒に帰路に就いた。
布藤は、もしかしたら仁藤さんと帰る機会があるかもと、クラスの打ち上げにはいかなかったらしい。


