告白された、親友の好きな人に

 そして、学級委員の最後の仕事の日。
 つまり、今に至る。
 
「正くん、ずっと前から好きでした。私と付き合ってくれませんか?」
 
 仁藤さんの言った言葉を、ぼくはしばらく理解できなかった。
 布藤くんのことが好きになったから協力して欲しい、ならわかる。
 布藤はずっと、仁藤さんから好かれようと努力をしていたから。
 でも、ぼくのことが好きになった、はわからない。
 ぼくは布藤の横にひっそりといただけだし、学級委員の仕事中という二人っきりになれる時も男友達と話す感じで普通に話していた。
 仁藤さんからの好感度を上げるイベントなんて、なかったはずだ。
 
「えーっと」
 
 想定外の仁藤さんの言葉に、ぼくは思考が停止して、マヌケな声を出すのが精いっぱいだった。
 
 顔を真っ赤に染めた仁藤さんは、返事を出せずにいるぼくを責めるでもなく、ぎこちない作り笑いをした。
 仁藤さんは、愛想笑いさえできないはずなのに。
 
「あ、ごめんね突然。驚かせちゃって。へ、返事は、いつでもいいから」
 
 仁藤さんはそう言い残して、速足で教室を出ていった。
 
 ぼくは誰もいない教室の中、一人でポツンと立ち尽くした。
 
 仁藤さんが立っていた場所をじっと見つめて、頭の中で仁藤さんから言われた言葉を何度も繰り返した。
 好き。
 ぼくのことが、好き。
 
 頭の中に、冷たい仮面をつけた仁藤さんが浮かび、笑顔の仁藤さん浮かび、顔を赤くした仁藤さんが浮かんだ。
 急に全身が熱くなって、顔がだんだん赤くなっていくのを感じた。
 
「好き? 仁藤さんが、ぼくのことを?」
 
 頭の中が、仁藤さんで埋め尽くされる。
 黒いサラサラの髪が。
 キリっとした目が。
 プルプルとした唇が。
 仁藤さんという人間が急にくっきりはっきり見え始め、指の先から髪の毛の先まで、全部が鮮明に描かれた。
 
 仁藤さんがぼくのことを好きということは、ぼくは仁藤さんと恋人になれるということだ。
 仁藤さんと恋人になれると、ぼくは仁藤さんと何ができるのだろう。
 
 ぼくと手をつないで学校から帰る仁藤さんの姿、休みの日に一緒に買い物へ行く仁藤さんの姿、夏祭りに行って浴衣で花火を見る仁藤さんの姿、プールに行って水着を着ている仁藤さんの姿、部屋で二人っきりになって顔を近づけてくる仁藤さんの姿。
 次から次へと妄想が浮かんで、止められなくなった。
 
「うわあああああああああ!!」
 
 妄想がとんでもない方向に向かい始めたので、ぼくは両手を全力で振って現実に戻ってきた。
 目には再び、誰もいない教室が映る。
 教室の中に置かれた仁藤さんの机が目に留まり、ただの机がとても尊いものに見えた。
 今すぐ触れたい衝動にかられた。
 
 大きく打つ心臓の音を聞きながら、ぼくは自覚した。
 ぼくも、仁藤さんが好きなんだと。
 
 顔がまた熱くなり始めたので、ぼくは仁藤さんの机から顔を背けた。
 背けた先には、布藤の机が置かれていた。
 
「あ」
 
 仁藤さんの妄想をかき消すような大声が、頭の中に響いた。
 
『頼む! 協力してくれ! 同じ学級委員なら、仁藤さんと話す機会あるだろう? 俺、高校で仁藤さんと再会できたの、運命だと思うんだ!』

 体から熱が引いていく。
 浮かれていた表情が消えていく。
 冷静になった頭には、ズキンズキンと強い痛みだけが残った。
 
「好き? 仁藤さんが、ぼくのことを?」
 
 嬉しかったはずの言葉が、とたんに逆転した。
 幸せだったはずの言葉が、突然不幸な言葉に逆転した。
 
 ぼくが仁藤さんの告白を受ければ、布藤はどう思うだろうか。
 恋の協力を願った相手が、自分の好きな人と付き合い始めたらどう思うだろうか。
 
 引いた熱が汗になって、全身から噴き出した。
 体から水分が抜けていき、目と口の中がカラカラに乾いていく。
 夕日の赤が、絶望の黒で塗りつぶされていく。
 
「駄目だ。ぼくは、仁藤さんと付き合えない」
 
 思考停止した頭の中で、ぼくはようやく一言を絞り出した。