数日後、蓮と陽菜は並んで、そして無言で歩道を進んでいた。昼間の授業が終わり、周りの生徒たちがそれぞれの帰路に向かう中、二人はただ歩いていた。気まずさがあるわけではないけれど、言葉にするほどでもない沈黙が二人の間に漂っていた。
「明日、テストだよね。」
陽菜が唐突に口を開いた。その声には、少しだけはしゃいでいるような音が混じっていた。
「うん、まあ、そうだね。別に特別勉強したわけでもないし、いつも通りかな。」
蓮は少し遠くを見ながら答えた。「いつも通り」だと言ったように、蓮の心の中は特に何も感じていなかった。テスト、いや勉強なんて、彼にとってはいつも通りの風景に過ぎなかったからだ。
「そうなんだ。蓮くんって、すごいよね。そんなに何もしてないのに、いつも成績良いなんて。」
陽菜の言葉に蓮は少しだけ顔を上げた。
「別にすごくないよ。要領良くやってるだけだし。」
少しの照れ隠しなのか、彼は肩を竦めた。
「でもさ、要領良くやるって、簡単そうで難しいよね。私はいつもなんかダメでさ。すぐに気持ちの方が先走っちゃって、あれもこれもって考えてるうちに結局何もできない事が多いんだ。」
陽菜の言葉には、少しだけ自嘲的なニュアンスが含まれていた。その言葉に、蓮は一瞬立ち止まりそうになったが、すぐに歩みを進める。蓮は陽菜が自分に似た感覚を持っている事に気が付いた。けれど、そこは彼女が普段、徹底的に隠している部分だ。彼女がその感情を口にすることで、普段は隠している部分が見えてきたのだった。
「でもさ、そういうの、やめられないんじゃないの。お前、いつも自分の気持ちに正直だし。」
陽菜は少し驚いたように目を見開いた。
「素直ってさ、そんなに良いことかな。」
「良いんじゃないの。本当の自分を隠して生きる方が、よっぽど辛いよ。」
そこまで言って、蓮は言葉を止める。「本当は陽菜のように素直に感情を出せる人が羨ましい。」そんな言葉は蓮の喉の奥の方に引っかかったようで出てこなかった。彼はその気持ちを心の奥にそっと戻す。自分を否定することだけはしたくなかったからだ。陽菜はしばらく黙って歩きながら、蓮の言葉を噛みしめるように考えている様だった。
「でもさ、素直でいると、後で後悔することも多いよ。私は、みんなに何か言われるのが怖くて、心の中でぐちゃぐちゃになることが、多かったから。でもね、自分の気持ちを押し殺していると楽ではあるけど、それが続くとすごく苦しくなるの。」
「それ、分かる気がする。」
蓮は少しだけ頷いた。
「俺も、何かを言ってしまうことで他人も、そして自分も傷つけたくないから、言わないほうが多い。でも、それって結局、後からどんどん溜まっていって、結局吐き出さなきゃいけない時が来るんだよな。」
陽菜は蓮の言葉に驚きながらも、優しく微笑んだ。
「蓮くんもそうなんだ。結局はさ、お互いに隠してることばっかりだよね。」
二人は少しだけ間を置いて、黙って歩き続けた。その沈黙の中で、蓮はふと気づいた事があった。自分が陽菜に対して心の何処かで感じていた「自分が一歩引いている」という距離感が少しずつ縮まっていることに。陽菜の持っている素直さや、周りに流されることなく自分を貫く姿勢が、彼にとって心地よくもあり、また不安を感じさせるものであることを。
「でも、陽菜はそんな風に思ったことあるの。」
蓮は突然、少しだけ戸惑いながら口を開いた。
「周りを気にしないで、自分の思うように行動出来るのって、きっとすごい勇気がいるだろ。」
陽菜は少し考えてから、ゆっくりと答えた。
「私は、そうじゃないかな。周りがどう思うかとか実は結構気にしてる。でもさ、結局最後には自分がどうしたいかって思っちゃう。だって、誰かのために何かをして、後悔しても意味ないから。」
その言葉が蓮の心に小さな波を立てた。彼は自分が陽菜のように行動出来るかどうか確信が持てなかった。けれど、陽菜の真っ直ぐな言葉がどこかで自分の中に引っかかるのを感じていた。
「お前は、本当に不器用だよな。」
蓮は少しだけ笑みを浮かべて言った。
「でも、お前にはそれがいいのかもしれない。」
陽菜は照れたように笑いながら、少しだけ視線を横に逸らした。
「ありがと、蓮くん。」
二人の間に再び沈黙が広がったが、今度の沈黙は前よりも心地よかった。言葉では言い尽くせない感情が二人の間を流れていた。
「明日、テストだよね。」
陽菜が唐突に口を開いた。その声には、少しだけはしゃいでいるような音が混じっていた。
「うん、まあ、そうだね。別に特別勉強したわけでもないし、いつも通りかな。」
蓮は少し遠くを見ながら答えた。「いつも通り」だと言ったように、蓮の心の中は特に何も感じていなかった。テスト、いや勉強なんて、彼にとってはいつも通りの風景に過ぎなかったからだ。
「そうなんだ。蓮くんって、すごいよね。そんなに何もしてないのに、いつも成績良いなんて。」
陽菜の言葉に蓮は少しだけ顔を上げた。
「別にすごくないよ。要領良くやってるだけだし。」
少しの照れ隠しなのか、彼は肩を竦めた。
「でもさ、要領良くやるって、簡単そうで難しいよね。私はいつもなんかダメでさ。すぐに気持ちの方が先走っちゃって、あれもこれもって考えてるうちに結局何もできない事が多いんだ。」
陽菜の言葉には、少しだけ自嘲的なニュアンスが含まれていた。その言葉に、蓮は一瞬立ち止まりそうになったが、すぐに歩みを進める。蓮は陽菜が自分に似た感覚を持っている事に気が付いた。けれど、そこは彼女が普段、徹底的に隠している部分だ。彼女がその感情を口にすることで、普段は隠している部分が見えてきたのだった。
「でもさ、そういうの、やめられないんじゃないの。お前、いつも自分の気持ちに正直だし。」
陽菜は少し驚いたように目を見開いた。
「素直ってさ、そんなに良いことかな。」
「良いんじゃないの。本当の自分を隠して生きる方が、よっぽど辛いよ。」
そこまで言って、蓮は言葉を止める。「本当は陽菜のように素直に感情を出せる人が羨ましい。」そんな言葉は蓮の喉の奥の方に引っかかったようで出てこなかった。彼はその気持ちを心の奥にそっと戻す。自分を否定することだけはしたくなかったからだ。陽菜はしばらく黙って歩きながら、蓮の言葉を噛みしめるように考えている様だった。
「でもさ、素直でいると、後で後悔することも多いよ。私は、みんなに何か言われるのが怖くて、心の中でぐちゃぐちゃになることが、多かったから。でもね、自分の気持ちを押し殺していると楽ではあるけど、それが続くとすごく苦しくなるの。」
「それ、分かる気がする。」
蓮は少しだけ頷いた。
「俺も、何かを言ってしまうことで他人も、そして自分も傷つけたくないから、言わないほうが多い。でも、それって結局、後からどんどん溜まっていって、結局吐き出さなきゃいけない時が来るんだよな。」
陽菜は蓮の言葉に驚きながらも、優しく微笑んだ。
「蓮くんもそうなんだ。結局はさ、お互いに隠してることばっかりだよね。」
二人は少しだけ間を置いて、黙って歩き続けた。その沈黙の中で、蓮はふと気づいた事があった。自分が陽菜に対して心の何処かで感じていた「自分が一歩引いている」という距離感が少しずつ縮まっていることに。陽菜の持っている素直さや、周りに流されることなく自分を貫く姿勢が、彼にとって心地よくもあり、また不安を感じさせるものであることを。
「でも、陽菜はそんな風に思ったことあるの。」
蓮は突然、少しだけ戸惑いながら口を開いた。
「周りを気にしないで、自分の思うように行動出来るのって、きっとすごい勇気がいるだろ。」
陽菜は少し考えてから、ゆっくりと答えた。
「私は、そうじゃないかな。周りがどう思うかとか実は結構気にしてる。でもさ、結局最後には自分がどうしたいかって思っちゃう。だって、誰かのために何かをして、後悔しても意味ないから。」
その言葉が蓮の心に小さな波を立てた。彼は自分が陽菜のように行動出来るかどうか確信が持てなかった。けれど、陽菜の真っ直ぐな言葉がどこかで自分の中に引っかかるのを感じていた。
「お前は、本当に不器用だよな。」
蓮は少しだけ笑みを浮かべて言った。
「でも、お前にはそれがいいのかもしれない。」
陽菜は照れたように笑いながら、少しだけ視線を横に逸らした。
「ありがと、蓮くん。」
二人の間に再び沈黙が広がったが、今度の沈黙は前よりも心地よかった。言葉では言い尽くせない感情が二人の間を流れていた。



