卒業式の準備が終わった放課後。教室の隅で藤井が窓の外を眺めながら、ふと独り言のように呟き始めた。
「なあ、あの時…陽菜がさ、クラスの空気に正面から言葉をぶつけたとき。正直、すげえと思ったけど、俺、何も言えなかったんだよな。」
蓮は「俺もだよ」と返そうとしたが、藤井が言葉を続ける。
「でもさ、陽菜の言葉を聞いたあと、確かに何かが変わったんだよ。あの空気に慣れちまって、何も感じないふりしてきたけど…あの時、陽菜がちゃんと怒ってくれて、なんかほっとしてた。」
藤井は言葉を落として呟く。
「結局最後まで言えなかったけど、ありがたかったんだ。本当は。」
そして、笑いながらこう締めくくる。
「俺さ、たぶんまだ陽菜みたいにはなれないけど、今度は、見てるだけにならないようにする。…たぶんな。」
その横顔に蓮は微かに頷いた。今度は圭介が口を開いた。
「俺さ、紗季に何か言えたかもしれないのに、何もできなかったんだよな。」
「圭介だけじゃないよ。私だって、ずっと見てたのに……笑って流してただけだった。」
瑠美が応える。
「部活のこととか、成績とか、大学とか、頭がいっぱいで…でも、なんか言い訳にしか聞こえねえな、今になると。」
「…お前だけじゃないよ。俺だって自分のことでいっぱいいっぱいで。…陽菜が声を上げた時、目が合ったんだよ、優衣と。背筋がゾワってして動けなかった。今度の標的になるのが、怖くて…。」
今度は拓真が応えた。
「うん、…わかるよ。同調して、空気を壊さずに過ごしてたら、自分は守られてるって思っちゃってた。」
愛が拓真の目を見つめながら呟く。そのまま言葉を続ける。
「陽菜はすごかった。私は、正しいことがわかっていても、声に出せなかった。……でも、私たち、今なら少しは言えるかもしれないね。」
その言葉にその場にいたみんなが頷いた。沈黙が流れる。その中出翔が口を開いた。
「…俺、クラスを明るくしたくて学級委員長になったのに…。ただ見てただけだった、自分が嫌になった。それなのに声が出なかったんだ。俺、悔しくて…。」
「ううん、翔くんだけじゃないよ。私もね、廊下ですれ違った時ですら、声をかけられなかった。無視をしてる、って気づかれない程度に距離を置いてた。」
美咲が震える声で呟く。
「それが、余計に堪えるよな。気づかれないように傷つけるなんて、一番ずるい。」
翔が目を伏せながら応えた。また沈黙が広がる。
「ねえ、…私たちあの時から少しは救われたのかな。」
愛が周りの様子を伺いながら小さな声で問いかけた。
「少しずつでも、変わっていけたらいいよな。」
蓮の言葉にみんなが頷いていた。
「なあ、あの時…陽菜がさ、クラスの空気に正面から言葉をぶつけたとき。正直、すげえと思ったけど、俺、何も言えなかったんだよな。」
蓮は「俺もだよ」と返そうとしたが、藤井が言葉を続ける。
「でもさ、陽菜の言葉を聞いたあと、確かに何かが変わったんだよ。あの空気に慣れちまって、何も感じないふりしてきたけど…あの時、陽菜がちゃんと怒ってくれて、なんかほっとしてた。」
藤井は言葉を落として呟く。
「結局最後まで言えなかったけど、ありがたかったんだ。本当は。」
そして、笑いながらこう締めくくる。
「俺さ、たぶんまだ陽菜みたいにはなれないけど、今度は、見てるだけにならないようにする。…たぶんな。」
その横顔に蓮は微かに頷いた。今度は圭介が口を開いた。
「俺さ、紗季に何か言えたかもしれないのに、何もできなかったんだよな。」
「圭介だけじゃないよ。私だって、ずっと見てたのに……笑って流してただけだった。」
瑠美が応える。
「部活のこととか、成績とか、大学とか、頭がいっぱいで…でも、なんか言い訳にしか聞こえねえな、今になると。」
「…お前だけじゃないよ。俺だって自分のことでいっぱいいっぱいで。…陽菜が声を上げた時、目が合ったんだよ、優衣と。背筋がゾワってして動けなかった。今度の標的になるのが、怖くて…。」
今度は拓真が応えた。
「うん、…わかるよ。同調して、空気を壊さずに過ごしてたら、自分は守られてるって思っちゃってた。」
愛が拓真の目を見つめながら呟く。そのまま言葉を続ける。
「陽菜はすごかった。私は、正しいことがわかっていても、声に出せなかった。……でも、私たち、今なら少しは言えるかもしれないね。」
その言葉にその場にいたみんなが頷いた。沈黙が流れる。その中出翔が口を開いた。
「…俺、クラスを明るくしたくて学級委員長になったのに…。ただ見てただけだった、自分が嫌になった。それなのに声が出なかったんだ。俺、悔しくて…。」
「ううん、翔くんだけじゃないよ。私もね、廊下ですれ違った時ですら、声をかけられなかった。無視をしてる、って気づかれない程度に距離を置いてた。」
美咲が震える声で呟く。
「それが、余計に堪えるよな。気づかれないように傷つけるなんて、一番ずるい。」
翔が目を伏せながら応えた。また沈黙が広がる。
「ねえ、…私たちあの時から少しは救われたのかな。」
愛が周りの様子を伺いながら小さな声で問いかけた。
「少しずつでも、変わっていけたらいいよな。」
蓮の言葉にみんなが頷いていた。



