白井は、カーテン越しに差し込む夕陽をぼんやりと眺めていた。もうすぐ、この学年ともお別れだと思うと、静かな安堵と、言いようのないざらついた思いが胸に残る。その隣で、資料の束を抱えた若手教員の田所が、そっとコーヒーを机に置いた。
「白井先生、お疲れ様です。……卒業式、明日ですね。」
「…ああ、早いものだな。」
白井は窓の外を見つめたまま応えた。何かを言いかけて、しかし言葉を飲み込む。代わりに、長くため息を吐いた。田所は椅子に腰を下ろしながら白井を横目で見る。
「……やっぱり、気にされてるんですね、あの件。」
白井は一瞬だけ田所の方を見て、それからまた視線を落とした。
「…教師なんて、正面から向き合ってるつもりで、肝心なところを見て見ぬふりをしてる。あの時も、誰かが苦しんでいたのはわかっていたのに…私はクラス全体の落ち着きばかり気にして、結局、何もできなかった。」
「でも、生徒たちは変わったじゃないですか。陽菜さんも、蓮くんも、そして…紗季さんも、他の子たちも。小さな一歩かもしれないですけど、自分で考えて、自分で動いていた。あれって、白井先生が信じて見守っていたからじゃないですか。」
「信じた、か…。」
白井は笑っていた。それは自嘲にも近かったが、どこか救われたような笑みでもあった。
「信じるって言葉、実はすごく怖いんだよ。何もしないことと、紙一重にもなる。……けど、あの子たちが卒業する姿を見ると、少しだけ救われる気がするな。俺が見落としていたものを、彼らが拾ってくれたみたいで…。」
田所は頷いた。
「あの子たち、白井先生のことちゃんと見てましたよ。蓮くんが言ってました。『先生は、口数少ないけど、何があっても逃げなかった』って。」
白井は少し目を見開き、それから照れくさそうに俯いた。
「……不器用なだけだったんだな。教師ってのは、案外、生徒に育てられるものなのかもな。」
窓の外では、夕陽がようやく地平に沈みかけていた。静かで、どこか優しい時間が、職員室を満たしていた。
「白井先生、お疲れ様です。……卒業式、明日ですね。」
「…ああ、早いものだな。」
白井は窓の外を見つめたまま応えた。何かを言いかけて、しかし言葉を飲み込む。代わりに、長くため息を吐いた。田所は椅子に腰を下ろしながら白井を横目で見る。
「……やっぱり、気にされてるんですね、あの件。」
白井は一瞬だけ田所の方を見て、それからまた視線を落とした。
「…教師なんて、正面から向き合ってるつもりで、肝心なところを見て見ぬふりをしてる。あの時も、誰かが苦しんでいたのはわかっていたのに…私はクラス全体の落ち着きばかり気にして、結局、何もできなかった。」
「でも、生徒たちは変わったじゃないですか。陽菜さんも、蓮くんも、そして…紗季さんも、他の子たちも。小さな一歩かもしれないですけど、自分で考えて、自分で動いていた。あれって、白井先生が信じて見守っていたからじゃないですか。」
「信じた、か…。」
白井は笑っていた。それは自嘲にも近かったが、どこか救われたような笑みでもあった。
「信じるって言葉、実はすごく怖いんだよ。何もしないことと、紙一重にもなる。……けど、あの子たちが卒業する姿を見ると、少しだけ救われる気がするな。俺が見落としていたものを、彼らが拾ってくれたみたいで…。」
田所は頷いた。
「あの子たち、白井先生のことちゃんと見てましたよ。蓮くんが言ってました。『先生は、口数少ないけど、何があっても逃げなかった』って。」
白井は少し目を見開き、それから照れくさそうに俯いた。
「……不器用なだけだったんだな。教師ってのは、案外、生徒に育てられるものなのかもな。」
窓の外では、夕陽がようやく地平に沈みかけていた。静かで、どこか優しい時間が、職員室を満たしていた。



