新学期が始まり、教室には穏やかなざわめきが戻っていた。かつての張り詰めた空気は消え、完璧ではないけれど、お互いに目を合わせられる関係がそこにはあった。蓮は、いつものように自分の席に座りながら、少しずつ変わっていくクラスの様子を眺めていた。隣の席では、陽菜がノートを開いている。何気ない仕草のひとつひとつが、蓮にはもう、かけがえのないものに思えた。
「最近、よく笑うようになったよね、蓮くん。」
陽菜がふと呟くように言う。
「そうか。自覚はないけど…。」
「うん、でも変わったと思う。前はもっと、誰にも触れないようにしてた。」
その言葉に、蓮は少しだけ目を細めた。
「…あの頃は、関わることが面倒だった。何かを背負うのが怖かった。でも今は……それでも関わりたいって思える。」
陽菜は微笑む。そして、おずおずと口を開いた。
「私ね、次の学期でまた引っ越すの。」
その言葉に、蓮の思考が一瞬止まる。
「え。」
「お父さんの仕事の都合で……元々、数ヶ月の予定だったんだ。でも、それでもこの学校に来て良かったって思ってる。蓮くんたちに出会えて、本当に良かった。」
蓮は何も言えなかった。陽菜の言葉は優しく、でも、静かに遠ざかっていく気がして、胸が締め付けられる。
「もう少しだけ、ここにいられる。だから……その間にちゃんと、伝えたいことは伝えたいなって。」
そう言って陽菜は立ち上がる。陽の光が差し込み、彼女の姿を柔らかく照らしていた。
放課後、蓮は屋上に陽菜を呼び出した。かつて彼女と始めて話した場所。
「陽菜。」
「うん。」
「ありがとう。お前が来てくれたおかげで、俺は…俺をちゃんと始められた気がする。」
陽菜は、少し驚いたように目を見開いた後、ゆっくりと頷いた。
「私もだよ。蓮くんがいてくれたから、怖くても前を向けた。」
沈黙が降りる。でもそれは、「孤独」ではなかった。
「離れても、俺は…ちゃんと、陽菜を思い出すよ。」
「うん。私も、忘れないよ。」
二人は、屋上から見える春の空を見上げた。言葉は尽きても、心は確かに重なっていた。季節は巡り、制服も、教室も、関係も、少しずつ変わっていく。それでも、あの時間は、あの痛みは、すべてが「誰かと生きた証」だった。そして蓮は、今日も教室に立つ。もう、誰からも逃げないと決めた自分で。
「最近、よく笑うようになったよね、蓮くん。」
陽菜がふと呟くように言う。
「そうか。自覚はないけど…。」
「うん、でも変わったと思う。前はもっと、誰にも触れないようにしてた。」
その言葉に、蓮は少しだけ目を細めた。
「…あの頃は、関わることが面倒だった。何かを背負うのが怖かった。でも今は……それでも関わりたいって思える。」
陽菜は微笑む。そして、おずおずと口を開いた。
「私ね、次の学期でまた引っ越すの。」
その言葉に、蓮の思考が一瞬止まる。
「え。」
「お父さんの仕事の都合で……元々、数ヶ月の予定だったんだ。でも、それでもこの学校に来て良かったって思ってる。蓮くんたちに出会えて、本当に良かった。」
蓮は何も言えなかった。陽菜の言葉は優しく、でも、静かに遠ざかっていく気がして、胸が締め付けられる。
「もう少しだけ、ここにいられる。だから……その間にちゃんと、伝えたいことは伝えたいなって。」
そう言って陽菜は立ち上がる。陽の光が差し込み、彼女の姿を柔らかく照らしていた。
放課後、蓮は屋上に陽菜を呼び出した。かつて彼女と始めて話した場所。
「陽菜。」
「うん。」
「ありがとう。お前が来てくれたおかげで、俺は…俺をちゃんと始められた気がする。」
陽菜は、少し驚いたように目を見開いた後、ゆっくりと頷いた。
「私もだよ。蓮くんがいてくれたから、怖くても前を向けた。」
沈黙が降りる。でもそれは、「孤独」ではなかった。
「離れても、俺は…ちゃんと、陽菜を思い出すよ。」
「うん。私も、忘れないよ。」
二人は、屋上から見える春の空を見上げた。言葉は尽きても、心は確かに重なっていた。季節は巡り、制服も、教室も、関係も、少しずつ変わっていく。それでも、あの時間は、あの痛みは、すべてが「誰かと生きた証」だった。そして蓮は、今日も教室に立つ。もう、誰からも逃げないと決めた自分で。



