「最初はさ、正しいと思ったんだ。助ければきっと何かが変わるって。でも、誰も味方してくれなかった。結局、その子にも背を向けられたあげく、転校して。……俺は、クラスで浮いた。教師も、何も言わなかった。正しさなんて、何の意味もなかった。」
そこまで話すと蓮はふと言葉を止めた。口の中で次の言葉を組み立てようとして、けれど上手く形に出来なかった。
「それで、怖くなったんだ。他人に関わるのも、自分の気持ちを曝け出すのも。もう……。」
言いかけて、蓮はまた言葉を飲み込む。そこから先は、まだ語るには傷が深すぎた。だから蓮はもう一度口を開く。
「…だけど、今度は救えた。陽菜のおかげで。だから、ありがとう。」
沈黙が降りる。だがその沈黙は、気まずさではなく、どこか柔らかく、守られているようだった。陽菜はそっと、机の上で自分の指先を蓮の手元の近くへと滑らせた。触れはしない。けれど、その距離は届きそうなほど近い。
「話してくれてありがとう。あと、どういたしまして。」
その言葉に蓮は思わず目を伏せた。込み上げる感情の波を、どう処理すればいいのか分からなかった。けれど、温かい何かが胸の奥で揺れていた。
 そしてその夜、蓮は久しぶりに自分の過去の夢を見た。でも、いつもとは違って、その夢の中には誰かが隣に立っていた。