季節が移り変わろうとしている日の放課後、蓮は教室に残っていた。教室には他に陽菜がいた。普段なら、無駄に絡むことをしない距離感を保っていた。しかし、今日は何故だか心が落ち着かず、陽菜に声をかけずにはいられなかった。
「陽菜、ちょっといいか。」
「うん、いいよ。」
陽菜は少し驚いた様子で振り向いたが、すぐに笑顔を見せて、そう答えた。陽菜の笑顔が何故か胸を刺す。
「何だか、ずっと気になってたことがあってさ。」
蓮は言葉を選ぶように口を開いた。
「…お前ってさ、どうしてそんなに、何もかも背負い込んでしまうんだ。」
陽菜の目がほんの少しだけ鋭くなった。しかしすぐに表情を緩める。
「背負い込む。それって、どういう意味。」
蓮は息を吐き出し、少し苛立たしげに言った。
「例えば、あの時、紗季のことだってそうだろ。お前、無理して彼女を助けようとした。結局どうなった。結局みんなが疲れるだけじゃないか。お前が入ってきたことで、クラスが一時的にでも変わったと思ったかもしれないけどさ、それって結局、誰かが犠牲になるだけだろ。お前が無理に頑張っても、何も変わらないよ。」
陽菜はその言葉に一瞬言葉を失った。だがすぐに、じっと蓮を見つめ返す。
「それでも、私はやらないと気が済まないの。人のために動くことを、私はやめたくない。」
その言葉に、蓮は目を見開き、少し強い口調で返した。
「だからって、お前が一人で全てを背負う必要はないだろう。みんな、それぞれの問題を抱えている。何もかもお前が解決しようなんて、無理だし、最終的にはお前が壊れるだけだ。」
陽菜はしばらく黙っていたが、その後、小さく息を吐いて言った。
「じゃあ、蓮はどうなの。あなたは何も問題を抱えてないって思ってるの。いつもクールで、誰とも深く関わらずに、でもその実、誰かの痛みにすら目を向けようとしない。あなたは、そうやって一生、周りと無関係に生きるつもりなの。」
その言葉が蓮の心に突き刺さる。彼は少し顔をしかめたが、すぐに目を逸らす。
「…お前には分からないよ。俺は、無駄に傷つきたくないだけだ。俺が関わったことで、誰かが痛みを抱えることになるくらいなら、最初から関わらないほうがいい。」
陽菜の目が強い意志を秘めて輝き出した。
「それが、間違っていると思わないかな。だって、誰かを傷つけたくないからって、最初から関わらないなんて、逃げているだけじゃん。私は、傷つくことを怖がって逃げている自分を見たくない。」
蓮は言葉を返せなかった。陽菜の言葉が、彼の内側の何かを引き裂くように響いた。
「俺が何かを守ろうとして動いても、結局誰かに裏切られる。それを知ってるから、関わらないほうがいいんだ。」
「裏切られるって…。」
陽菜が小さく呟いた。その言葉を受けて、蓮は肩を落とし、目を閉じた。
「…中学の時、他人を守ろうとして、孤立したんだ。結局、誰も助けてくれなかった。」
陽菜は、蓮のその言葉に静かに耳を傾けた。蓮は言葉を続ける。
「その時、俺はわかったんだ。人を助けても、報われないんだって。結局は、助けた人だけが傷を負うんだって。」
陽菜の瞳にほんの少しの涙が光った。
「蓮くん、それでもやらなきゃいけないことだってあると思う。傷つくことを恐れて、何もしないほうがよっぽど辛いよ。」
「お前はどうしていつも、無茶をしてまで、俺たちに関わろうとするんだよ。」
蓮が放ったその言葉に、陽菜は真剣に答えた。
「私だって、怖いよ。傷つくのも嫌だし、見捨てられるのも辛い。でも、もし自分が何もしなかったら、後悔するって思うんだ。」
蓮はしばらく黙っていた。陽菜の真剣な目を見つめると、胸の中に何かが込み上げてくるのを感じた。
「後悔…。」
「そう。自分にできることをしなかった後悔の方が、何倍も辛いよ。」
その瞬間、蓮は自分が陽菜にどれほど影響されているのかを実感した。陽菜が持っている「真っ直ぐな力」が少しずつ自分の中に浸透してきていることに気づく。
「わかったよ…。」
蓮は小さく呟いた。
「お前が言ってること、少し分かる気がする。でも、まだ怖いんだ。俺、誰かを守ったり、傷つけたりするのが…。」
陽菜はゆっくりと歩み寄り、蓮の肩に手を置いた。
「それでいいんだよ、蓮。怖くても、少しずつでいいから、一緒に前に進もう。」
「陽菜、ちょっといいか。」
「うん、いいよ。」
陽菜は少し驚いた様子で振り向いたが、すぐに笑顔を見せて、そう答えた。陽菜の笑顔が何故か胸を刺す。
「何だか、ずっと気になってたことがあってさ。」
蓮は言葉を選ぶように口を開いた。
「…お前ってさ、どうしてそんなに、何もかも背負い込んでしまうんだ。」
陽菜の目がほんの少しだけ鋭くなった。しかしすぐに表情を緩める。
「背負い込む。それって、どういう意味。」
蓮は息を吐き出し、少し苛立たしげに言った。
「例えば、あの時、紗季のことだってそうだろ。お前、無理して彼女を助けようとした。結局どうなった。結局みんなが疲れるだけじゃないか。お前が入ってきたことで、クラスが一時的にでも変わったと思ったかもしれないけどさ、それって結局、誰かが犠牲になるだけだろ。お前が無理に頑張っても、何も変わらないよ。」
陽菜はその言葉に一瞬言葉を失った。だがすぐに、じっと蓮を見つめ返す。
「それでも、私はやらないと気が済まないの。人のために動くことを、私はやめたくない。」
その言葉に、蓮は目を見開き、少し強い口調で返した。
「だからって、お前が一人で全てを背負う必要はないだろう。みんな、それぞれの問題を抱えている。何もかもお前が解決しようなんて、無理だし、最終的にはお前が壊れるだけだ。」
陽菜はしばらく黙っていたが、その後、小さく息を吐いて言った。
「じゃあ、蓮はどうなの。あなたは何も問題を抱えてないって思ってるの。いつもクールで、誰とも深く関わらずに、でもその実、誰かの痛みにすら目を向けようとしない。あなたは、そうやって一生、周りと無関係に生きるつもりなの。」
その言葉が蓮の心に突き刺さる。彼は少し顔をしかめたが、すぐに目を逸らす。
「…お前には分からないよ。俺は、無駄に傷つきたくないだけだ。俺が関わったことで、誰かが痛みを抱えることになるくらいなら、最初から関わらないほうがいい。」
陽菜の目が強い意志を秘めて輝き出した。
「それが、間違っていると思わないかな。だって、誰かを傷つけたくないからって、最初から関わらないなんて、逃げているだけじゃん。私は、傷つくことを怖がって逃げている自分を見たくない。」
蓮は言葉を返せなかった。陽菜の言葉が、彼の内側の何かを引き裂くように響いた。
「俺が何かを守ろうとして動いても、結局誰かに裏切られる。それを知ってるから、関わらないほうがいいんだ。」
「裏切られるって…。」
陽菜が小さく呟いた。その言葉を受けて、蓮は肩を落とし、目を閉じた。
「…中学の時、他人を守ろうとして、孤立したんだ。結局、誰も助けてくれなかった。」
陽菜は、蓮のその言葉に静かに耳を傾けた。蓮は言葉を続ける。
「その時、俺はわかったんだ。人を助けても、報われないんだって。結局は、助けた人だけが傷を負うんだって。」
陽菜の瞳にほんの少しの涙が光った。
「蓮くん、それでもやらなきゃいけないことだってあると思う。傷つくことを恐れて、何もしないほうがよっぽど辛いよ。」
「お前はどうしていつも、無茶をしてまで、俺たちに関わろうとするんだよ。」
蓮が放ったその言葉に、陽菜は真剣に答えた。
「私だって、怖いよ。傷つくのも嫌だし、見捨てられるのも辛い。でも、もし自分が何もしなかったら、後悔するって思うんだ。」
蓮はしばらく黙っていた。陽菜の真剣な目を見つめると、胸の中に何かが込み上げてくるのを感じた。
「後悔…。」
「そう。自分にできることをしなかった後悔の方が、何倍も辛いよ。」
その瞬間、蓮は自分が陽菜にどれほど影響されているのかを実感した。陽菜が持っている「真っ直ぐな力」が少しずつ自分の中に浸透してきていることに気づく。
「わかったよ…。」
蓮は小さく呟いた。
「お前が言ってること、少し分かる気がする。でも、まだ怖いんだ。俺、誰かを守ったり、傷つけたりするのが…。」
陽菜はゆっくりと歩み寄り、蓮の肩に手を置いた。
「それでいいんだよ、蓮。怖くても、少しずつでいいから、一緒に前に進もう。」



