生なるい風が頬を撫でて、君の煙草の匂いが鼻をくすぐる。
貴方にとって私は、ただのガキで。煙草のすえる年齢にさえまだなってない。だからずっと、隣で黙っていた。その距離感が私たちにとっては居心地がよくて。でも、それ以上が欲しくなってしまう。今まで私は、こんな身勝手な自分を隠そうと必死だった。けど、今日でこの恋も終わる。
花火があがるまであと、二分。
*
「俺、片思いが一番、楽しいと思うんだよな」
細い目で遠くを見つめる先は、私じゃない誰かを見つめているようだった。
「両想いの方がよくない?」
「遠くから目で好きな人を追ってる方が案外俺は好きだな」
この時から年の離れすぎた幼馴染の私は、貴方の目には写ってないのだとわかった。ずっとこの一言が脳裏に染み付いていて、貴方のことを好きだと思う度この音声が再生される。
「遠くから見ていたいって、私はこの4年間
君のことずっと好きだったのに」
*
もう、君と会えるのも今日で最後。
「大学卒業したから、明日に引っ越すんだよね?」
「うん。晴れてお前の世話役もしなくてすむなー」
気怠げに煙草に火をつける。そんな貴方を見れるのも、今日で最後か。と思うと抑えてたものが溢れそうになってきた。
「私世話してもらった覚えないです!」
「お前は来月から中2かー、頑張れよ」
「あ、もうそろそろ始まる」
二人で、少し人の少ない丘で見る花火は何より嬉しかった。
君の横顔が光のシャワーより綺麗に移り込む。自分でも気づかぬうちに、私は静かに見惚れていた。
「好き」
小さく放った言葉は、君に届かぬまま暗闇に溶ける。
もし私たちが付き合っていたらどうなっていただろう。そんな甘い砂糖菓子のような想像を、一人でしている。
これでいいのと自分に言い聞かせる。同時に、今までの思い出が頭の中に写し出されていく。貴方といれば、沈黙さえも幸せに変わった。もう少し、一緒にいたかったな。そんなどうしようもない哀しみが私の心の中を滲ませる。
あと、一歩だったのに。



