俺はオルカの案を実行するため家に帰ろうと廊下を歩いていたら、クレイが俺を呼び止めた。

「こんなところにいたのね」
「なにか用か?」
「今さっき、オーシャンバトルの対戦相手が決まってね。丁度皆に報告していたところなの」

クレイはそう言いながら、俺に一枚の紙を渡してきた。

「早いな。もう決まったのか、対戦相手」

クレイから渡された紙を受け取り、それに目を通すと、そこには師匠の名前があった。

「まさか第一回戦で俺たちと師匠か……」
「あの男のことだから、アトランティスの要とも言われているあなたを潰したいのかも」
「あの人ならありえるな」

師匠とアオは親子だ。もしできるなら二人を戦わせたくないのが本音だ。
でも、アトランティスを守るためなら戦わないといけない。
それに、アオも師匠に会いたい気持ちがあるのは確かだ。

「それと、あの子とは交尾()れた?」
「……」

クレイの言葉に思わず嫌悪な表情をしてしまった。

「なによ、その表情は。先輩が心配して聞いているのだから、そんな表情はしないの」
「するしないも、お前が変なことしなければいいだけのこと」
「あら、バレてた」

俺の言葉にクレイは瞠目し、隠し持っていた媚薬入りの注射器を出してきた。

「別に良いのよ?私の媚薬を使っても」
「いや、お前の媚薬は()()に使わない」
「そう、つまんないわね」

不満そうな様子を見せるクレイ。俺からしたらこの女の媚薬を使うくらいなら、オルカの案の方がまだアオを傷つけずに済む。

「アオが家で待っているから、俺はそろそろ行く」
「そう。アオさんによろしくね~」

クレイは嬉しそうに俺に軽く手を振って、俺はその場を後にした。

そういえばアオの奴、なんで先に帰ったんだ?魚の研究をするなら、神殿で調べるのがいいだろうに。

「ただいま」

家の玄関を開け、一言声を掛ければ、リビングの方からアオの声が聞こえてきた。

「セラ!おかえり」

俺はそのままリビングの方に行くと、彼女は机に魔石や布のハギレなどを広げて、何か作業をしていた。

「何をしているんだ?」
「あっ、いや。か、片付けるね!」

アオは慌てて机の上を片付け始め、作業道具や材料などを自室に持っていった。
何故、そんなに慌てるんだ?別に慌てることもないだろうに……。彼女のそんな様子を見て俺は不思議に思うものの、気にすることはなかった。

「そういえば、オーシャンバトルの対戦相手が決まったぞ」
「え?もう決まったの?」

クレイから渡された対戦相手の紙を、アオに渡すと彼女はそれを受け取った。

「あぁ、俺も早いとは思ったが……ポセイドン様と向こうはさっさと終わらせたいらしい」
「私たちの対戦相手、やっぱりお父さんなんだね」

アオは紙に書かれた師匠の名前を見て愁色な顔をし、手に持った紙を机に置いた。

「もし、辛いなら…戦うのをやめるか?」

俺の問いにアオは戸惑うものの、一呼吸し俺の方を真っすぐと見つめた。

「やめないよ。確かに、お父さんと戦うのは辛いよ。でもね、ここで戦わず逃げ出したら、私は一生後悔する」
「……しかし、師匠となれば生きて帰れる保証は……」
「だから、なんで君は私たちが死ぬ前提で話す?私と君はオーシャンバトルに向けて、お互いを信じて今日まで修行をしてきたんだ。だから、私と君は絶対に生きて帰る。もちろんお父さんも連れてきて、事情を聞き出す!」

アオの真剣な眼差しは俺を話すことなく、ただ一点を見つめていた。
あぁ、そうだった……今まで、彼女は絶対に諦めたり逃げ出すことなんてしなかった。

「そこまで言われたら、心配なんて要らないな」
「もちろん。それに、セラがこんな素敵な家を建てたんだ。お父さんにも見てもらわないとね」
「あ~それはちょっと……」

アオは父親としての師匠しか見ていないため、弟子から見た師匠は何においても厳しくて、何回も半殺しにされてきた。
そんな師匠が、俺が建てたこの家を見たらどう思うのだろうか?
俺の技術的にも不安と恐怖でしかないが、今考えてもしょうがない。
師匠のことを考えていたら、アオが声を掛けた。

「あ、セラにあげたいものがあるんだよ」
「あげたいもの?」

アオは何か取りに自室へ行き、小さな何かを手に持って戻ってきた。

「はい、これ」

アオから渡されたのは、手のひらサイズの小さな布袋だった。

「これは?」
「お守り!この世界のお守りはよく分からなかったから、こっちの世界のお守りを作ったんだ。中には綺麗な魔石が入っているよ」

彼女の手作りお守りは可愛らしく、お守りの真ん中にはこっちの文字で「必勝」と刺繍されていた。
俺は嬉しさのあまり、彼女を優しく抱きしめた。

「セ、セラ!?」
「ありがとう……アオ」

これは絶対に勝たないといけないな。
師匠に勝つ為にも、今夜絶対に()()をしないといけない。

「ア、アオ……」
「なに?」

俺に呼ばれて、彼女は顔を見上げる。
海のような青く綺麗な瞳、童顔もあるさいか彼女の可愛い差が増し直視できない。
恥ずかしさと己の欲が沸々と込み上げてくる。

「そ、その……えっと……クレイの奴が言ってたんだ。同調率上げるには愛が必要だって!その、あ、愛を手っ取り早く上げるには……」
「手っ取り早く上げるには?」

ほら!言うんだ俺、ここまで来てなんで出てこないんだよ。

「その、えっと……お前と交尾がしたい」

俺の言葉にアオは一瞬固まるものの、俺の言葉をすぐに理解した。

「交尾……あー!なるほど、そういうこと!もちろんいいよ」
「…は?」

あっさりとした返答に、俺は思わず間抜けな返事をしてしまった。

「ほら、交尾()るんでしょ?寝室に行こう」
「ちょ、ちょまっ」

アオは俺の手を強く引き、俺は彼女に寝室へ連れて行かれた。