紙にペンを走らせる。
[お母さんお父さんへ]
誤解して欲しくないから書きます。
イジメられたり精神的に苦しいから死んだんじゃありません。2人が嫌いな訳でも無いです。でも、ある日あっち側に呼ばれている気がした日があったんです。だんだんその声が僕の中で大きくなって、だから誰も悪くありません。これまで育ててくれてありがとう。さようなら

何日も悩んで考えた文章がこれぐらいの長さにしかならなかった。別に嘘は書いていないけど、きっとこれを読んでも僕が死んだ理由なんて分からないだろう。
「うーん難しいな~」
体を動かすと肩や腰からポキポキッと小さく音がなる。窓の外から小学生が遊ぶ声が聞こえる。無邪気な声を聞いているうちに手紙なんか書かなくてもいい気がしてきた。
机の上に置いてある紙をグシャグシャに丸めてゴミ箱に投げ入れる。きれいな軌道を描いて中に吸い込まれていく。
「おっ!ナイスショット」
思わず声が出る。なんだか疲れてきてベッドに飛び込む。バフッと毛布が僕を包み込む。明日僕は死ぬ。理由なんて物は無い。強いて言うなら呼ばれた気がするから。自分でもなんてくだらない理由だろうと思う。でも本当に僕は明日死ぬ。
いつからか良く憶えていないけど僕を呼ぶ声が窓から聞こえた。最初は気の所為だと思った。でもだんだんその声が大きくなっていった。声はいつも僕以外の家族がいない時に聞こえた。人間は不思議なもので言われている内にそうしなきゃいけない気がしてくるのだ。少しでもその声の言っていることを認めると自分の意識に侵食してきて、最終的にいまにいたる。
馬鹿だなと思う反面明日を楽しみに思う自分がいる。
生きている今死んでいる明日。
「うん。考えるほど不思議だ」
枕に顔を埋めながら言葉を出す。寝返りをして天井の模様を見る。僕のために電気を消したら星空のように見える仕様にしてある。これで最後と考えると申し訳なくなってくる。名残惜しく思いながら目をつむる。意識が夢の中に入っていく。
目を開けると朝日が窓からカーテンごしに優しく部屋を照らす。ゆっくりベッドから立ち上がり制服を着る。名札をつける。これで僕だと分かるだろう。朝早くから両親は仕事に行った。休みの日に制服はおかしいかな?とか思いながらスニーカーを履く。家を出ていつも通っている道を歩いて途中で曲がる。
昔良く遊んだ森に入って奥に奥に進んで行くと開けた場所に出る。そこは崖になっていて下を覗くと海が広がっている。深呼吸を一つここまで来たら後戻りは出来ない。好奇心と少しの恐怖が頭をいっぱいにする。助走をつけて思いっきり前に跳ぶ。
「フフフっ!こんなもんか」
跳ぶと全身が軽くなる。ちょっとジェットコースターみたいだ。バシャン大きな飛沫が僕の体を囲う。水面に打ち付けられて痛みが全身に一瞬にして広がる。どこからが出た血が水に広がる。全身がヒリヒリする。体のあちこちに水が入り込む鼻が痛い、息が苦しい。意識が暗くなる中どこかで好奇心は猫を殺すと聞いたことを思い出す。確かにそうだな、、、口からボコボコと空気が抜けていく。酸欠で思考が上手くいかない中思い出すあの声
あぁ、、そうか声の主は、、、