「あのさ」
先に口を開いたのは、僕だった。声が、自分でも驚くほど掠れていた。
「柊さん……」
「何ですか」
彼女の声は、やはり硬かった。僕から距離を取ろうとしているのが分かる。
「いや……その……」
言葉が、出てこない。何を言いたかったんだ、僕は。謝罪か? それとも、あの時の感想か? あるいは、ただ、元気でよかった、とでも言いたかったのか。頭の中で整理したはずの言葉は、いざ彼女を目の前にすると、跡形もなく消え去ってしまう。
「元気そうで、よかった」
結局、また、そんなありきたりな言葉しか出てこなかった。情けない。
「先輩も」
彼女も、それ以上何も言わなかった。その返事は、肯定なのか、皮肉なのか、判別がつかない。
視線が合う。彼女の瞳の奥に、何か言いたげな、問いかけるような色が揺らめいた気がした。それは、あの高校の廊下で見たものと同じ色かもしれない。けれど、それはすぐに消え、再び硬い、感情を読み取らせない表情に戻る。 僕は、ポケットの中の、何も書かれていないはずのメモ帳を、無意識に握りしめていた。伝えるべき言葉は、ここにはない。僕自身の、この口で紡ぎ出すしかないのだ。
「俺……!」
何かを言おうとして、言葉が喉の奥でつかえる。 雪乃は、僕の次の言葉を待っているようだった。その小さな背中が、僕にはひどく大きく、そして遠く感じられた。あの才能の輝きと同じように、手の届かない場所にいるように思えた。
「本当は……」
違う。こんな、弱々しい言葉じゃない。
先に口を開いたのは、僕だった。声が、自分でも驚くほど掠れていた。
「柊さん……」
「何ですか」
彼女の声は、やはり硬かった。僕から距離を取ろうとしているのが分かる。
「いや……その……」
言葉が、出てこない。何を言いたかったんだ、僕は。謝罪か? それとも、あの時の感想か? あるいは、ただ、元気でよかった、とでも言いたかったのか。頭の中で整理したはずの言葉は、いざ彼女を目の前にすると、跡形もなく消え去ってしまう。
「元気そうで、よかった」
結局、また、そんなありきたりな言葉しか出てこなかった。情けない。
「先輩も」
彼女も、それ以上何も言わなかった。その返事は、肯定なのか、皮肉なのか、判別がつかない。
視線が合う。彼女の瞳の奥に、何か言いたげな、問いかけるような色が揺らめいた気がした。それは、あの高校の廊下で見たものと同じ色かもしれない。けれど、それはすぐに消え、再び硬い、感情を読み取らせない表情に戻る。 僕は、ポケットの中の、何も書かれていないはずのメモ帳を、無意識に握りしめていた。伝えるべき言葉は、ここにはない。僕自身の、この口で紡ぎ出すしかないのだ。
「俺……!」
何かを言おうとして、言葉が喉の奥でつかえる。 雪乃は、僕の次の言葉を待っているようだった。その小さな背中が、僕にはひどく大きく、そして遠く感じられた。あの才能の輝きと同じように、手の届かない場所にいるように思えた。
「本当は……」
違う。こんな、弱々しい言葉じゃない。
